★ 長閑な秋晴れ。こんな日が続けばよいのだが。
★ さて今日は、三田誠広さんの「僕って何」(河出書房新社)を読んだ。1977年の作品で、学生時代に一度読んでいる。
★ 大学進学のため田舎から上京したそこそこ旧家の青年。温かい家族に過保護なほどに育てられ、家族から(特に母親から)の独立に期待を寄せていた。しかし、そんな無垢な彼が入学したのは各セクトが入り乱れ内ゲバが絶えない大学だった。
★ 上京から1月余り。友達もできず都会の孤独を味わっていた青年。ふとあるセクトの学生集会を通り過ぎた時、声をかけられた。田舎では受験勉強で精一杯。政治運動やセクトのことなど全く関心も知識もなかった彼だが、孤独に耐えられず、初のデモで感じた高揚感に刺激され、「活動」に参加するようになった。
★ 彼の何に魅かれたのか、「上司」にあたる女性リーダーと同棲も始める。
★ しかし、何らかの思いがあってセクトに入ったわけではない。セクト間の暴力を目にし、それに自分なりの理由を見いだせない彼は、セクトを辞めると告げる。セクトから離れることは女性リーダーの彼女との関係も終わるのか。
★ セクトを離れた彼は同級生に「オルグ」され全共闘に参加しようとする。一般学生による運動というのに魅かれたのだが、蓋を開けてみれば、白や赤や青などと色分けされたヘルメットをかぶった集団が主導権を争うセクト間の覇権争い。結局彼はどの色にも染まれず、年上の彼女(女性リーダー)と内ゲバのニュースを見て上京した母親という二人の女性に挟まれて、眠りにつく場面で物語は終わる。
★ どのセクトにもなじめず、それゆえ孤立感を感じる「僕」に共感する。彼は結局、プチブルとかマザコンなのかも知れないが、教条主義に毒され、上位下達の軍隊のような組織で、暴力も是とするような異常な状況の中では、この「僕」がまともに見える。
★ ヘルメットの色で、「あぁ、あのセクトか」などと想定しながら読むのも面白い。女子学生が多く一見平和主義のA派は「民青」だね。文学部自治会を牛耳っている白ヘル(B派)は「中核派」か。じゃあ同じ白ヘル(C派)は「革マル派」かな。赤ヘル(D派)は「ブント(共産同)」かな。青ヘル(E派)は「社青同」かな。
★ 研究室の指導教官は学園紛争の真っ只中の闘志だったから、「あの時代、あんな青年がいたなんて想像もできない」と言っていたが、その後の時代を生きた私にとっては、面白い作品だった。
★ 山藤章二さんの装幀も素敵だ。