何年か前の6月、東京本社から
来た人たちとの仕事明けの翌
朝、彼らが帰京する便までの
時間が空いた。彼らの希望で
宮島を散策する事にした。
東京人二人、宮島は初めてだ
と言う。
宮島まで行くと、丁度よい塩
梅で干潮時だった。湾の潮位
が90cmになると歩いて大鳥居
まで行ける。
地中に埋めていない、ただ砂
浜にドスンと立っているだけ
の海の中の大鳥居だ。
宮島のレストラン前で「食い
物くれ~」状態の鹿。
潮が引いているので、大鳥居
のところまで歩けた。
早朝なのに外国人観光客ばか
りだった。
家族連れの金髪の20歳前後の
女の子が、鳥居のそばの海底
にばらまかれたお賽銭を見つ
けて「オゥ!ラッキーペン
ス!」と歓喜の声をあげなが
ら砂浜のチャラ銭を拾い集め
ていた。
話し方を聴いているとコモン
ウェルスの人たちだろか。
私はさりげなく、「どうぞ拾
わないでください」と母親ら
しき人に英語で言った。
すると、
「拾わないで?どうしてです
か?」
とクイーンズイングリッシュ
で訊くので、私はゆっくりと
落ち着いた口調で単語を間違
えないように説明した。最後
にプリーズをつけるのも忘れ
ずに。
「これらはお賽銭なんです。
日本の人々の祈りがこれらに
は込められています。
この神社は国の宝でもあるん
です。
お手にしたコインはどうか
そのままお戻しくださいな。
お願いいたします」
と。
するとすぐに得心した様子で
「ああ。そうなのね!」と言
いながら母親と女の子は笑顔
で返してきた。
こちらも笑顔を返した。