渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

日本刀の美を引き出すのは研ぎ次第

2024年01月16日 | open




私の差料、二尺三寸一分、無銘。
初期新刀だろうが、粗見では
なく精査すると、鉄(か
ね)
と製法が古いと鑑せられる。
研ぎは京都の腕の良い研師の
先生に
お願いした研ぎである。
非常に雅に刀の持ち味を引き
出してくれるしっとりとした
品の良い研ぎだ。巷によくあ
るペンキ
を塗ったような花魁
研ぎでは
ない。古雅な風味を
奏でる、
とても清涼で質の良
い研ぎだと私は思う。


日本刀を生かすも殺すも研ぎ
次第。
これは絶対定理だ。
技量の高い日本刀研磨師は、
確実に下地研ぎが優れている。
それの優劣甲乙については専
門的な解説になるのでここで
は割愛する。
今の時代は、下地もガタガタ
にしてしまい、かつ、べったり
とした花魁化粧のような研ぎに
してしまう研師が実に多い。
この京都の先生の研ぎの作は
私はとても好きだ。

研ぎ次第というのは、日本刀
だけではない。
日本刀の研磨の技法を駆使す
ると、全鋼の安いカネ駒の肥
後守でさえこのような鋼の働
きを浮かび上がらせる事がで
きる。研ぎ私。
笹の葉形はノーマルブレード
を私が磨り上げにより成形。

肥後守は実用刃物なので、安
い肥後守をここまで日本刀と
同じ技法で研磨する人、ある
いは仕上げた作はネット上で
は日本国内、否、全世界中で
見た事がない。


肥後守でさえ、鍛造と熱処理
による熱変態の鋼の働きがこ
こまで出ている。
これは日本刀研磨の古流技法
の差し込み研ぎによる研ぎだ
が、日本刀も刀身全体に働き
が出ている。
日本刀の見どころは地鉄(ぢ
がね)の鍛えと働きに尽きる。
刃文などは熱変態の働きの
範疇の一つに過ぎない。
日本刀は鉄を観る。
それが、本道本筋であり、日
本刀鑑賞の極めはそこだ。
そして、研師が真っ白化粧で
こすって描いた刃の白い部分
は、やりすぎると本当の焼刃
が見えなくなる。厚化粧だか
らだ。
本物の美人は素顔のノーメイク
すっぴんでも美しいものだ。
日本刀とは、本来は素肌美人
を十二分に観るのが日本刀の
観方だ。
それをいらぬ研ぎで台無しに
してしまっては、日本刀製作
者も刀身自身も泣くだろう。
化粧研ぎもよいが、ごくほんの
薄化粧で素肌美人を引き出して
あげるのが、本物の日本刀研磨
師の匠の技だろう。
そして、それは誰にでもできる
事ではない。
ナイフや包丁の研ぎとは全く
異なるのが日本刀の研ぎだ。
それゆえ、日本刀は厳密には
研ぎとは呼ばず、研磨と呼ぶ。
慣用呼称で「研師」とはいうが、
刀の研師は厳密には日本刀研磨
師なのだ。
きちんとした伝統技法を確実に
習得した人しか日本刀の研磨は
できない。

私はナイフや包丁は研げても、
日本刀を研磨することはでき
ない。
上掲のような一般人ができない
技法で肥後守を研磨する事が
できても、日本刀研磨はでき
ない。
これは当たり前の事だ。
日本刀は日本刀研磨師の仕事だ。
趣味で刀を研ぐなどというのは
余人にはできない事なのだ。
その伝統技法は極めて奥深い。
刀鍛冶よりも刀屋よりも、ある
いは学術研究者よりも、日本刀
を一番知っているのは日本刀研
磨師なのだ。
この不動の定理は、実は世の中
ではあまり知られていない。

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