今は昔。昭和の終わりの少し
前。
窓の外にオートバイのエンジン
の音がした。
エンジンを切ってしばらくした
ら、私の部屋のドアをノックす
る音がする。
フーイズイット?とは言わずに
ドアを開けたら知り合いの飲み
屋の女の子が「へっへっへ」と
笑って立っている。バイト先別
店舗の女の子だった。
「あ、久しぶり。どうしたの?」
と訊くと、外出て見てくれと言
う。
なんだろうと思って出て見たら、
ピカピカのヤマハのバイクがあ
る。
なんだろ?先輩か彼氏にでも乗
っけて来てもらったのかな、と
思って尋ねる。
「どしたの?これ?」と。
すると、「へっへっへ」とまた
漫画のような笑い方をする。
「もしかして・・・?」と言う
と「買っちゃった!」と言って
顔をくしゃくしゃにして笑う。
「お~!やったじゃん。てか免
許は?」
と言うと、いつの間にか自動二
輪免許を取ったのらしい。ほえ
~。知らなかった。
「すげ~。やるなあ。乗らせて
よ」と、すぐに部屋に戻ってヘ
ルメットを取って来て、乗らせ
てもらって近所を一周して来た。
RZ350とはかなり特性が異なる
ので、ふ~むと思った記憶が強
い。
RZのようにナチュラルハンドリ
ングではなく、寝かせると前輪
がイン側に切れ込むような癖が
あった。新車でそうだった。
その後のヤマハ4ストモデルで
は試乗してもそのようなことは
無かったので、過渡期のモデル
であるのか、もしくは新車出荷
段階でのセッティングの問題な
のか。理由は不明だが、私が乗
った新車の個体は、中低速でイ
ンに前輪が切れ込む挙動がある
ことだけは確かだった。
その人がバイクに乗っているの
はその時見た限りだが、80年代
前半はバイクブームだったから
か、女性でもポンポコと二輪免
許を取ってオートバイに乗り始
めていた。
1970年代の私が高校の頃は、自
動二輪に乗る女性は極端に少な
かったので、1980年代は初頭か
らいかに一気にバイクブームと
いうものが訪れたということか、
なのだ。
芸能人の女性などでもバイクに
乗る人が結構登場し初めていた。
その数年後にはおニャン子でさ
え乗っていた(笑
鈴鹿8耐などは、観客が18万人
位いた。
トイレに行くのに2時間以上か
かったりもした。サーキットの
場内がまるで明治神宮の初詣状
態だったからだ。
それほど、1980年代のバイク
ブームは空前絶後だったので
ある。
80年代前期の学生時代にも、い
つの間にか二輪免許を取ってバ
イクに乗り初めていた女子学生
たちも多くいた。
そのバイクブームは90年代中期
あたりまで続き、社会人になっ
てからも、私の職場の弁護士秘
書の女性でも数えただけでも3人
以上がバイク女子になっていた。
ミニバイク含めると現在の10倍
以上の数のバイクが売れていた
のだから、どれほどのバイクブ
ームだったか想像がつくだろう。
いや、想像もできない、という
ものか。
バイクに乗って走る人生と乗ら
ない、走らない人生では、まる
で別物。
スッパリと竹を割ったようなス
プリット状態。真っ二つ。
まあ、モーターサイクルは人の
人生を豊かにするよ。