マンションによく遊びにくるネコー。僕は勝手に「チビ」と呼んでいます。見かけはこんなブチブチさんですが(笑)、もの凄く可愛らしい声で「ミャッ」、と鳴きます。高く澄んでいて、どこか儚い声で。
どうも、僕の部屋の扉の音や、僕の歩く音、クルマの音まで判るみたいで、出先から帰ったときなど、よくどこからともなく現れます。夜中に気まぐれに口笛を吹くと、時には「なによ」と、暗闇の中からやって来たりもします。チビはとっても人懐っこくて、触ってもまず嫌がったりしません(むしろゴロンと横になる位です)。カワイイやつです。そう、僕がたまに鰹節をあげたりしてるのは、このコなんです。
チビはメスです。そして、よくモテるみたい(笑)。しょっちゅう妊娠してますから。この写真を撮ったとき(先週)も、既にかなりお腹が大きかったので、もうそろそろかもしれません。ネコーは二ヶ月ほどで生むんですよね。
きっと間もなく、子猫達の「ミャーミャー」という賑やかな声が聞こえるようになります。そしてしばらくすると、チビの後ろをフラフラと、そのうちトコトコ歩き回るようになります。まるで毛玉がコロコロと転がって歩いているようなかわいさ。でもいつも、いつの間にか、子供達は居なくなってしまいます。そしてチビだけが、また「ミャッミャッ」と一人で、歩き回っているのです。
少し前のことになりますが、チビが生んだ子供が一匹、階段下の隙間で、小さく「ミー、ミー」と鳴いておりました。やっとうっすらと目が見え始めたか、まだ見えていないか、くらいの小さな子猫でした。この時も、他にも何匹か兄弟が生まれていたはず(声がしていたので)なのですが、辺りには彼らの姿も、母親であるチビの姿もありませんでした。
あまりに可愛いのでしゃがみこんでその子猫を抱き上げて、ハッとしました。後ろの足が、ダラーンと垂れ下がっていたんです。改めて土の上に置いてみると、やはり、前足だけを突っ張るようにして身体を起こそうとするばかりで、後ろ足には力が入っていないようでした。
僕は思い立って、チビがそばに居ないのをいいことに「いまのうちに」と、家からバスタオルを持って出て子猫を包んで、クルマに乗せて一番近所にある小さな動物病院へ連れて行きました。
白髪髭の先生が、診察台に乗せて後ろ足をつついたり、触ったりして診てくれました。結果、「これは生まれつきの下半身麻痺ですね。」とおっしゃるので、「治りますか?」と訊ねると、「いえ、・・・これは無理でしょう。残念ですが、自分で餌を見つけることもできませんし・・・。かわいそうですが、まもなく死んでしまうと思います。なのでせめて、母親の元に返してあげたほうがいいと思いますよ。」
・・・仕方ありません。お礼を言って診察料を伺うと、首を横に振って「いえ、お金は頂きません。あなたの猫ではないのでしょう?とにかく、早く母親の元に。」
お礼を言って病院を後にし、「ミーミー」と助手席で鳴く子猫に「ごめんね」と声をかけながら帰りました。子猫を元の場所に戻し、小皿にミルクを入れて傍に置きました。そしてそれ以来、この子猫の姿は一度も見ませんでした。
お話はこれだけです。
今日もさっき、チビがやってきてました。
「元気な子供を生むんだよ」、と心の中で声をかけました。すると、
「ミャッ。」
では。