子どものころに、一度、書いてもらったことがあるのです。
結果的には、一度きりとなってしまいましたが、祖父と二人きりで、出かけた時でした。
小学校1年生か2年生とかだと思うのです。
でも、やっぱり、その一回のことを、ずっと覚えているのですよ。
そういうものなのですね。
動物園に連れて行ってもらった後、
聚楽という、昔ながらの”レストラン”でご飯を食べました。
「好きなものを頼みなさい」
と祖父にいわれて、確か、僕は、
チャーシューメンを頼んだ覚えがあります。
祖父は・・・なにを食べたのだったか、もう思い出せません。
でも、階段に腰かけた、ハンチングの画家の方に書いてもらった似顔絵は、
なんだか、ほっぺたがほんのり赤いようなもので、僕にとっては、なんだか気恥ずかしいものだったことは、不思議なことに、気持ちの記憶として、覚えているのです。
そして、祖父が
「どうもありがとうございます」
と言って、その似顔絵を受け取って、お財布からお代を払っていた光景も、今でも、はっきりと思い出せるのです。
あれから40年。
今でも、あの頃と変わらぬ石の階段。
似顔絵師。
そして、確かにそこにいた、40年前の僕とあの老画家と、祖父。
あんな一度きりの思い出を、今でもこの上野にくると、思い出すのです。
ではー。