【「国や役所任せでなく、1人1人がもっと、ものを言う社会に」】
著者は1934年京都市生まれの79歳。現在弁護士、さわやか福祉財団理事長。元検事で東京地検特捜部時代にはロッキード事件に関わり、起訴後、田中角栄元首相への論告求刑を担当した。本のタイトルと「あぁ、日本、どこへ行く」という帯の言葉に、閉塞感が漂う日本の現状と行く末を憂える著書の思いが端的に表れる。
8章構成。第2章「最悪のシナリオは、第三次世界大戦」という表題にはドキッとさせられる。中国、北朝鮮を念頭に「独裁国家は国民の不満のほこ先をかわすため侵略戦争の愚挙に出るおそれがある」と警告する。第3章は「最善のシナリオは、世界政府の樹立」。戦争の懸念をなくすには「EUのような国の連合体を5大陸の各地域の可能なところから広げていき、やがて連合している国を融合させること」とし、中国と北朝鮮については地理的に取り巻く国・地域がEUのような〝アジア民主主義国家連合〟をめざすことが両国の民主化にとっても有効と指摘する。
将来の国際的紛争の大きな原因として挙げるのが発展途上国での人口爆発。第4章ではこの問題を取り上げ、食糧・資源の限界から世界の人口を2020年の80億人を頂点として漸減させ「2090年に20億~30億人にするという目標を共有すべきだ」との主張を展開する。一方、日本では少子高齢化で年金制度の維持や医療・介護保険料の継続的な上昇が懸念されるが、「もっと移民に門戸を開き人口構成を釣り鐘型に近づける努力が必要」と言う。
第5~6章では「国と資本の狭いエゴの排斥」と「世界の国民の狭いエゴの抑制」が平和と繁栄の鍵になると指摘。その中で国際司法裁判所の権限拡大、国連安保理での拒否権の改革などを提案し、日本については「憲法9条の旗を掲げつつ、中国をはじめとする世界の各国に武力行使の愚かさを説く国になりたい」とする。民主主義の欠点や資本主義の欠陥にも触れ、クオーター制(割り当て)による女性の積極的な登用や「同一価値労働同一賃金」のルール化なども説く。
堀田氏は東日本大震災を機に被災地を中心にした「地域包括ケアの町」づくりを提唱し、国や自治体に働きかけてきた。だが復興は遅々として進んでいない。第7章「東日本大震災があぶり出した日本の問題」では自助・共助・公助の3つが不可欠とし、復興の遅れは縦割り行政とリーダーの不在で将来の全体像が描けていないことが大きいと指摘する。最終章はこう結ぶ。「子や孫の世代が明るく楽しい毎日を送れる日本社会をつくるには、国や役人任せにするのではなく、1人1人がもっと、ものを言う社会に変えていく必要がある」。