【名は最初に見つかった旧国名に由来。中国の伝説から「繍線菊」とも】
「バラ科シモツケ属ヤポニカ種」の学名を持つ落葉低木。日本各地の山野のほか、朝鮮半島や中国にも分布する。名前は下野の国(今の栃木県)で最初に見つかったことに因むというのが定説。ただ、白い粉をかぶった蕾や長いオシベが林立する花姿が、遠目で霜が下りたように見えることから「霜付け」に由来するとの説もある。
シモツケの花は淡紅色の5弁花。同じ仲間に白花の「シロバナシモツケ」(下の写真㊧)や花を円錐状に付ける「ホザキ(穂咲)シモツケ」(写真㊨)、葉が丸い「マルバシモツケ」などがある。アイズ(会津)、エゾ(蝦夷)、トサ(土佐)、イブキ(伊吹)など地名を冠したものも多い。箱根や富士山などに自生し、牧野富太郎博士が命名した「オヤマ(御山)シモツケ」というのもある。
コデマリやユキヤナギ、シジミバナなども同じ仲間のシモツケ属。シモツケに似た花を付ける植物にシモツケソウ(下野草)があるが、これは同じバラ科でもシモツケソウ属に分類されている。シモツケが木本なのに対しシモツケソウは草本と全く別の植物。シモツケは「キシモツケ(木下野)」とも呼ばれる。この別名も紛らわしいシモツケソウとの違いをはっきりさせるために付けられたのだろう。
シモツケは漢名から「繍線菊」とも書かれる。この名は中国・戦国時代の「繍線(しゅうせん)」という少女の悲しい伝説から。少女は敵に捕らわれ牢獄につながれた父を救うため、男装して苦労の末、牢屋の番人になる。だが、父はその時すでに他界していた。少女は父の思い出にお墓のそばに咲いていた花を摘んで故郷に戻っていく。人々はその花を親孝行な少女の名から「繍線菊」と呼ぶようになった――。「後の日に知る繍線菊の名もやさし」(山口誓子)。