【佐藤克文・青木かがり・中村乙水・渡辺伸一共著、丸善プラネット発行】
「バイオロギング」。最近この言葉を目や耳にすることが増えてきた。つい最近5月1日付の日本経済新聞でも「魚に発信器、生態の謎探る」の見出しで、ほぼ1ページを割いてバイオロギングの最新情報を紹介していた。「バイオ(生物)が」「ロギング(記録する)」の合成語。野生動物の体に記録計やカメラなどを取り付けて、動物と同じ目線で行動を観察する手法を指す。日本はその先進国の1つ。2003年には東京で「第1回国際バイオロギングシンポジウム」も開かれた。
本書はウミガメ、マンボウ、水鳥のオオミズナギドリ、マッコウクジラ、チーターを取り上げる。巨大なクジラや草原を疾走するチーターにどうやって記録計やカメラを取り付けたのか。そんな興味から、まず第5章のマッコウクジラ、次いで第6章のチーターから読み進めた。クジラの調査は小笠原諸島周辺で、捕食行動の解明を目的に行われた。装置の取り付けは長い棒で車のルーフキャリア用の吸盤を使って行う。やはり悪戦苦闘の連続だったが、3年目に深い海で餌を捕獲した〝痕跡〟の撮影に成功した。世界初という。撮影した2万枚弱の写真の中にイカの触腕やスミと思われるような写真が20枚あった。いずれもクジラが猛ダッシュした時に撮影されていた。相手はダイオウイカだったのだろうか。クジラ同士が潜水中、一緒に潜降したり体を触れ合ったりボディーコンタクトする様子もカメラで初めて捉えることもできた。
チーターの観察場所はアフリカ南部のナミビア共和国の野生動物保護区。チーターにはGPS(全地球測位システム)、加速度計、ビデオカメラを付けた首輪をはめた。保護区のチーターは人に馴れており装置の取り付けは比較的容易だったようだ。10日間の調査でチーターは70回狩りをし7回成功した。そのうちの1回の様子がカメラに映っていた。その時の最高時速は25キロ、疾走時間はわずか8秒。衝撃で画面はその後真っ暗になったが、カメラには悲鳴のような激しい獲物の鳴き声が記録されていた。加速度計にはその後2時間以上かけて獲物を食べる様子も記録されていた。時速100キロともいわれるチーターだが、広々した草原ではなくブッシュでの狩りということもあって70回の狩りの平均時速は31キロ、最高でも61キロだった。
マンボウに光源付きカメラを取り付けた調査では、主食がクラゲの中でも深い海中にいるクダクラゲ類ということが初めて明らかになった。クダクラゲは個虫と呼ばれる独立した個体が数珠つなぎになっている群体性のクラゲ。マンボウはその長いクラゲの群れをすするように食べているらしい。さらに体が大きいマンボウほど深い所に長くとどまって餌を探し食べることができることなども分かった。日経新聞の特集ではクニマス、ニホンウナギ、カブトガニ、沖縄本島周辺海域にすむヒロオウミヘビなどの研究事例を取り上げていた。バイオロギングの広がりによって、これまで観察が難しかった様々な動物の知られざる生態が今後次々に明らかになっていくに違いない。