【日本固有種、「宝塔華」「七階草」「七重草」などの別名も】
晩春、直立した花茎の先に鮮やかな紅紫色の花が何段も輪生して咲く。その姿を寺院の五重塔などの頂上を飾る九輪に見立てた。草丈は40~80cm、花の径は2~3cmほど。花は下の段から上に向かって咲き上がる。サクラソウ科サクラソウ属の多年草で、国内に自生するサクラソウ科の仲間の中では最も大きい。
北海道、本州、四国の山間や谷間の湿地帯に自生する。日本固有種で学名は「プリムラ・ジャポニカ」。まれに白花もある。古くから観賞のために栽培もされてきた。室町時代の『山科家礼記』という日記には「宝憧花(ほうとうけ)」の名で出てくるという。江戸時代末期に来日した英国の植物学者ロバート・フォーチュン(1812~80)は著書『幕末日本探訪記ー江戸と北京』の中で、クリンソウを「最も心をひかれた美しい花」と称えた。
階段状の花姿から九輪草と命名されたが、実際には数層から多くても7層ぐらいで、9層になることはまずないそうだ。そのためか、古くから「七階草(ナナカイソウ)」や「七重草(シチジュウソウ、ナナエソウ)」とも呼ばれてきた。小林一茶は「九輪草四五輪草でしまひけり」と詠んだ。「宝塔華(ホウトウゲ)」という別名も。
見頃はこれからが本番。約5万株が自生する長野県喬木村の九十九谷森林公園では5月10~25日に「くりん草まつり」を開く。関西で有名なのは40万株と国内最大級の群落を誇る兵庫県宍粟市のちくさ湿原群生地と神戸市の六甲高山植物園。いずれも例年5月中旬から見頃を迎える。栃木県の日光・千手ケ浜や北海道津別町の町民の森自然公園(通称ノンノの森)にも約30万株の大群落がある。ただクリンソウも例に漏れず乱獲や鹿の食害が深刻化、多くの道府県が絶滅危惧Ⅰ類またはⅡ類に指定している。