【太くて節の多い根茎の形をエビに見立てて】
以前は全国各地の山林や竹薮に多く自生していたラン科エビネ属(カランセ属)の多年草。特に関東、中部地方に多かったといわれる。節の多い根茎が連珠状に横に伸びる。その姿をエビに見立てた。4~5月頃、地際から生える数枚の長い若葉の間から高さ30~50cmほどの花茎を伸ばし、十数輪の唇弁のある花を横向きに付ける。萼片と側花弁は黄褐色や緑褐色、3つに裂けた唇弁は白または淡紅色。
エビネ(学名「Calanthe discolor」)は「ジ(地)エビネ」とも呼ばれる。全国に広く分布し最も一般的なエビネということだろう。エビネという場合、世界に200種ほどあるエビネ属全体を指したり、日本原産の約20種のエビネ属だけを指したりすることもある。それらと区別し狭義に使うときに「ジエビネ」と呼ぶわけだ。日本原産のエビネ属には花が黄色の「キエビネ」、赤みを帯びた唇弁を猿の顔にたとえた「サルメンエビネ」、花の香りがいい「ニオイエビネ」、夏に咲く「ナツエビネ」などがある。
エビネは地域によって花の色や大きさなど外観が異なる変異種が多いのも特徴。そのため「○○エビネ」と名前の頭に地名が付くものが多い。「キリシマ」「キソ」「アカクラ」「ヒゼン」「サクラジマ」「アマミ」「リュウキュウ」……。古くから観賞のために栽培された古典園芸植物の1つでもあり、江戸時代中期には栽培ブームの中で多くの新品種が作り出された。エビネは花材としても注目を集め、江戸時代の花道書にも多く取り上げられた。
その後、華やかな洋ランに押され忘れ去られたが、昭和40年代に入って野生ランの栽培ブームが訪れ再びエビネが脚光を浴びるようになった。今も全国に同好の士が多く、毎年4~5月には各地でエビネ展が開かれる。環境省のレッドリストでは準絶滅危惧種。エビネは大分県杵築市や福岡県久山町などで市花や町花になっている。群生地としては町田薬師池公園内のえびね苑(東京都町田市)や伊豆諸島の御蔵島えびね公園(東京都御蔵島村)などが有名。「隠者には隠のたのしみ花えびね」(林翔)。