【漢名「虎耳草」丸い葉をトラの耳になぞらえて】
ユキノシタ科ユキノシタ属の半常緑性多年草。本州・四国・九州の山間や渓谷などの湿地に群生し、以前は人家の庭先などでもよく見かけた。日本の在来植物のような身近な存在だが、もともとは古く中国から渡ってきた帰化植物ともいわれる。花期は晩春から初夏にかけて。直立した細い花茎の集散花序に小さな5弁花をいくつも付ける。5弁のうち下の2枚は白くて大きく、上の3枚は極めて小さく、うすいピンク地に赤の斑点模様が入る。その花の形をカモの足に見立て、ユキノシタに「鴨足草」という漢字表記が当てられることもある。
中国では葉の形をトラの耳になぞらえて「虎耳草(こじそう)」と呼ばれる。江戸時代初期の薬物和漢名対照辞典『多識編』(林羅山著)や江戸中期の百科事典『和漢三才図会』(寺島良安編)には漢名の「虎耳草」として出てくる。和名「雪の下」の語源ははっきりしない。一説に、寒さの厳しい冬の雪の下でも枯れずに青々としていることからとか、緑の葉の上に咲く白い花を雪にたとえたことから、などといわれる。2枚の白い花弁を〝雪の舌〟になぞらえたという説もある。
ユキノシタは古くから中耳炎など耳の病によく利く民間薬として親しまれてきた。厚くて丸い葉っぱを火であぶり揉んで、耳ややけど、しもやけ、虫刺されなどの患部に貼ったり、搾り汁を塗ったりする。葉の主成分、硝酸カリウムや塩化カリウムには利尿作用もある。またアルブチンという成分には美白効果があるといわれ、これを配合した化粧品も生まれている。葉は和え物や煮物などの食材としても利用されてきた。中でも天ぷらはもちもちとした独特の歯触りと風味でおいしいそうだ。
昨今の山野草ブームの中で人気が高いのが同じ仲間の「ダイモンジソウ(大文字草)」。花の上3弁がユキノシタより大きく、下2弁が二股に開いて、花の形が漢字の「大」に見えることから、その名がある。花期は遅く夏から晩秋にかけて。茨城県の筑波山には固有種の「ホシザキ(星咲き)ユキノシタ」が自生する。これは逆に下側の花弁が細く短く、花びらが線香花火のように放射状に広がったもの。つくば市の天然記念物で「市の花」にもなっている。「鴨足草薄暮の雨に殖えにけり」(長谷川零余子)。