【宮崎県中央部に位置、官民五者が保護・復元へ連携】
宮崎県の中央部に位置する「綾の照葉樹林」は日本に残された最後の広大な照葉樹林といわれる。中心部の600haに周辺部も含め約2000ha(東京ドーム428個分)。綾川流域に光沢のある深緑色の常緑広葉樹の樹林帯が広がる。4年前の2012年には「綾ユネスコエコパーク」として登録された。国内でユネスコのエコパートに登録されたのは屋久島、大台ケ原・大峰山、白山、志賀高原に続いて5カ所目だ。
綾の照葉樹林は九州中央山地国定公園内にあり、林野庁の「水源の森百選」や「森林浴の森百選」に選ばれている。さらに「綾川湧水群」として環境省の「名水百選」にも。かつて各地にあった照葉樹林は開発やスギ・ヒノキの人工林の増加などで多くが失われた。しかし、ここではコナラ属やマテバシイ属などのブナ科をはじめクスノキ科、ハイノキ科、ヤブコウジ科などの多様な樹木が生え、原生的な景観を残している。綾の照葉樹林を構成する植物は実に263種に上り、このうち高木だけでも24種あるそうだ。綾の森には絶滅危惧種のイヌワシやクマタカ、特別天然記念物のニホンカモシカなど貴重な動物も生息する。
シンボル的な存在が綾川渓谷に架かる全長250mの「綾の照葉大吊橋」。この橋の上からは照葉樹林を360度眺めることができる。橋のたもとには新しい石碑の横に「歩く吊橋 世界一」と刻まれた石碑もあった。今の吊橋は5年前の完成だが、それまであった吊橋は1984~2006年の間、人道吊橋として世界一の規模を誇ったという。古い石碑はその名残で、「架橋に込めた当時の意志を後世に伝えるため『世界一』の碑をそのまま残しています」という説明が添えられていた。
綾の照葉樹林は官民の連携によって保護されてきた。その核となっているのが九州森林管理局、宮崎県、綾町、日本自然保護協会、「てるはの森の会」の五者。この五者で連携会議を構成し、人工林から照葉樹林への復元や森林環境教育など「綾の照葉樹林プロジェクト」に取り組む。事務局を置く「てるはの森の会」(2005年設立、会員約170人)は観光客を案内するガイドボランティアも行っている。照葉樹林の復元は植栽するのではなく、スギやヒノキの間伐などによって林内に光を取り入れて照葉樹木の生育を促し、大きく育ったところで人工林を伐採するという。50年後、100年後を見据えた息の長い活動だ。ユネスコのエコパークとして登録されたのも、そうした地道な保護・復元への取り組みが評価されたという。