く~にゃん雑記帳

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<いろは歌> ひらがな手習いの歌の作者は空海(弘法大師)?

2016年11月17日 | メモ

【中に「咎なくて死す」の暗号? 作者に柿本人麻呂説も】

 「いろはにほへと ちりぬるを……」。47のかな文字を一度も繰り返さずに詠み込んだ「いろは歌」は、かなを学ぶときの手習い歌として平安時代の頃から日本人の間で親しまれてきた。ただ、その歌を誰がいつ作ったのかは今もってはっきり分からない。有力視されてきたのが高野山に金剛峯寺を開いた真言宗の開祖、弘法大師空海(774~835)だ。ただ、最近では空海より後の時代に作られたとの説が支配的になっている。一方で、最古の「いろは歌」が万葉がなで書かれていることなどから奈良時代に遡り、作者は悲劇の歌人柿本人麻呂と主張する研究者もいる。

 高野山(和歌山県高野町)の大師教会本部。その大講堂前に空海の真筆という「いろは歌」が刻まれた大きな石碑が立つ。「弘法大師御誕生一千二百年記念」とあるから、40年ほど前に奉納されたのだろうか。「弘法大師御真筆」に続いて七五調の「いろは歌」が8行にわたって刻まれている。大講堂は100年ほど前に高野山開創1100年の記念事業として建てられた。その大講堂の堂内三方の壁には空海の一代記を描いた「弘法大師行状図絵」26枚が掲げられている。 その21枚目は「いろは歌と綜芸(しゅげい)種智院」(上の写真㊨)。朱色の袈裟を身に着けた空海が子どもたちに何か教えている様子が描かれている。その絵の下にこんな説明が。「貴族の子弟でないと読み書きを学ぶことができなかった当時、庶民の子弟教育の為に、天長9年(832)12月、東寺の境内に『綜芸種智院』という学校を創設された。そして幼い子供にも解るようにと、仏さまの教えを仮名文字で示した『いろは歌』を作られた。御年59歳」

  

 「いろは歌」は釈迦の教えである「四句の偈(しくのげ)」が盛り込まれたものとよくいわれる。最初の「いろはにほへと ちりぬるを」が「諸行無常」、次の句が「是生滅法」、次が「生滅滅已(めつい)」、最後の句が「寂滅為楽(いらく)」。この教えを空海が誰でも分かるように「いろは歌」に訳した、というのが空海作者説だ。奈良県葛城市の当麻寺には空海が籠って瞑想したという曼荼羅堂があり、その堂内の「参籠の間」で「いろは歌」を作ったという伝承も。島根県出雲市の神門寺(かんどじ)は空海真筆の「いろは歌」を寺宝とし「いろは寺」として親しまれている。この寺にも空海がここで「いろは歌」を考案したという伝承があるそうだ。

 ただ、国語学の大家の大矢透博士(1851~1928)が約100年前に『音図及手習詞歌考』(1918年刊)で空海説を否定したのをはじめ、国語学界では空海説を支持する声は少なく、「いろは歌」が作られたのは10世紀末~11世紀中頃とみる研究者が多い。4年前の2012年、三重県明和町の斎宮跡から「いろは歌」が書かれた土器片が見つかった。斎宮は伊勢神宮に仕える斎王が過ごした場所で、土器片は11世紀末~12世紀前半のものだった。土器に書かれた「いろは歌」としては最古。「いろは歌」が書かれた最も古い文献は仏教の教義を解説した『金光明最勝王経音義(こんこうみょうさいしょうおうきょうおんぎ)』(1079年)。その巻頭(下の写真㊧)に7字区切りで7行にわたって万葉がなで書かれている。古いものはほとんどが7行書きという。当麻寺や神門寺に伝わる空海真蹟といわれるものも7行で書かれているそうだ。

     

 『金光…音義』の7行の末尾を横に並べると「止加那久天之須(とかなくてしす)」。これは「咎なくて死す」と読めなくもない。そこに着目して「いろは歌」には無実の罪で死に追いやられる人の悲痛な叫びが暗号として組み込まれているとみる研究者も。篠原央憲(ひさのり)氏もその一人で、日本上代の悲劇的運命を辿った人物を探索する中で万葉の歌人、柿本人麻呂に行き着いた。人麻呂は藤原不比等の政争に巻き込まれて都から追放されたとみる。哲学者の梅原猛氏も『水底の歌』で人麻呂刑死説を唱えた。篠原氏はさらに万葉集の巻1、巻2について人麻呂自身が原本を編んだ当事者とみる。そして「いろは歌」にはもう一つの暗号もあると指摘する。上から5字目を横に読んだ「本乎津能己女(ほをつのこめ)」。これは万葉集の原本を石見国の妻、依羅娘子(よさみのおとめ)に届けてくれるよう頼んだものと推測する。篠原氏は『柿本人麻呂 いろは歌の謎』(上の写真㊨)や『柿本人麻呂の謎 古代暗号学明かす歌聖の恐るべき生涯』などでその暗号説を詳しく展開している。

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