【「春の七草」の一つ、戦国武将の家紋にも!】
アブラナ科ナズナ属(カプセラ属)の2年草で、全国各地の道端や畦道、休耕田、野原などごく身近な場所でよく見かける植物。地面にへばりつくように放射状に広がる根生葉はビタミンB1やカルシウムなどを多く含んで栄養価が高く、「春の七草」の一つとして正月の「七草粥」の食材にもなっている。花期は3~5月頃。高さ20~40cmほどの花茎を立てアブラナ科特有の十字形の白い小花をたくさん付ける。
ナズナは「ペンペングサ」の名前で呼ばれることが多い。これは花後にできる小さな実(莢)が平たい倒三角形で、三味線の撥(ばち)に似ていることから。「シャミセングサ」や「バチグサ」などとも呼ばれる。学名(種小名)の「bursa-pastoris(ブルサ・パストリス)」も「羊飼いの財布」を意味し、実の形からの連想による。果穂を振ると中の種がぶつかり合って鳴るため、地方によっては擬音語で「ガラガラ」や「カラカラ」などとも呼ぶ。「ぺんぺん草も生えないような」と形容されるほど、荒廃した場所でもよく育つことからハルジオンとともに「貧乏草」と呼ばれることもある。
ナズナの語源には諸説。撫でたいほどかわいい菜「撫で菜」からの転訛説や、春に咲き夏には枯れるため「夏無」や「夏なき菜」からの転訛説など。古くから食用のほか解熱、利尿などの民間薬としても利用されてきた。「薺」の文字は平安初期に編纂された漢和辞典『新撰字鏡(しんせんじきょう)』に登場するのが初見という。その力強い生命力に戦国武将たちも着目し、奥州伊達氏をはじめ畠山氏、京極氏、朝倉氏など多くの武将が葉を図案化した「五つ薺」「八つ薺」「雪輪に六つ薺」などナズナ紋を好んで用いた。
ナズナは日本だけでなく北半球の温帯~亜熱帯地域に広く分布する。ヨーロッパなどでは実が細長い二等辺三角形の変種「ホソミナズナ」のほうが主流という。よく似た別属の帰化植物に、実の形が相撲の軍配に似たヨーロッパ原産の「グンバイナズナ」、北米原産で小型の「マメグンバイナズナ」などがある。また「イヌナズナ」は花が黄色で、葉が食用にならないためナズナより劣るという意味合いで〝イヌ〟と冠された。「黒髪に挿すはしやみせんぐさの花」(横山白虹)