【和名は根茎に由来、万葉集に登場する「にこぐさ」?】
全国各地の山地や草原の半日陰地に自生するキジカクシ科の多年草。朝鮮半島や中国にも分布する。草丈は30~80cm。4~5月頃、弓なりの茎の葉の付け根から花柄を伸ばし、先端が薄緑色の筒状の白花を1~2個ずつ下向きに付ける。その姿は近縁のナルコユリ(鳴子百合)に酷似し、葉に覆輪の斑(ふ)が入った園芸品種(写真)が園芸店でナルコユリの名前で売られることも多い。野生種にはもちろん斑入りのものはない。
学名は「Polygonatum odoratum(ポリゴナツム・オドラツム)」。種小名は「芳香がある」を意味する。根茎は太くて節々で曲がり髭根が多く生える。和名は根茎の姿形がヤマノイモ科の蔓性植物トコロ(野老)に似て、甘味で食用にもなることから。「野老」は〝山野の老人〟を意味し、長い髭(触覚)を持ち腰が曲がった〝海の老人〟海老(エビ)に対する比喩表現。乾燥したアマドコロの根茎は漢方で「萎甤(いずい)」や「玉竹(ぎょくちく)」と呼ばれて滋養・強壮の生薬として利用され、美肌や打撲・捻挫の治療効果もあるそうだ。
近縁のナルコユリは筒状の白花がいくつも並んで下垂する様子から、野鳥を追い払うため田畑に吊り下げられる鳴子にたとえて名付けられた。アマドコロが茎に稜線(りょうせん)があり角ばっているのに対し、ナルコユリは稜がなく円柱形なのが大きな違い。ナルコユリの花期は5~6月頃とやや遅く、草丈も大きくて一カ所に3~8個の花を付けるといった違いもある。アマドコロの花姿は一見ホウチャクソウ(宝鐸草)にも似る。これはイヌサフラン科チゴユリ属の有毒植物で「キツネノチョウチン(狐の提灯)」とも呼ばれている。
万葉集に「にこぐさ」を詠んだ歌が4首ある。万葉表記は「爾古具佐」「似兒草」「和草」など。そのうちの一首「葦垣の中の和草にこやかに我れと笑まして人に知らゆな」(巻11-2762)。この「にこぐさ」がアマドコロとみられている。ただシダ植物の一種ハコネシダ(箱根羊歯)ではないかとみる説も。アマドコロの変種に草丈や花がやや大型のヤマアマドコロやオオアマドコロがある。