【語源は天智天皇が発したお言葉「むべなるかな」?】
暖地の山地に自生するアケビ科ムベ属の蔓性植物。関東以西の本州・四国・九州のほか朝鮮半島の南部にも分布する。雌雄同株。4~5月頃、葉の脇から総状花序を伸ばし、6枚の萼片から成る可愛い小花を付ける。花弁はない。花色は外側が白く、内側は紅紫色。葉は手のひらを広げたような掌状複葉で、3枚または5枚または7枚の〝753〟の小葉が付くため造園業界では「縁起のいい木」とされているそうだ。
ムベはアケビが落葉性なのに対し常緑性であることから「トキワ(常葉・常磐)アケビ」の別名を持つ。「ウベ」や「ノボケ(野木瓜)」と呼ばれることも。秋になると鶏卵よりやや大きい長さ6~8cmほどの赤紫色の実を付け食用とされる。アケビは実が熟すとぱっくり割れることから一説に「開け実」が語源ともいわれるが、このムベは実が裂けることはない。春先の新芽はおひたしや和え物に、蔓は染色して生け花の材料にもされてきた。
語源には諸説。その一つに7世紀の天智天皇にまつわる伝説がある。近江(滋賀県)での狩りの途中、天皇が男子8人を持つ元気な老夫婦と出会う。「汝ら、いかにかく長寿ぞ」と問うと、夫婦は「この果実が無病長寿の霊果です」と答え差し出す。その果実を口にした天皇は「むべなるかな(もっともことだ、なるほど)」と納得し、毎年献上するよう命じた。その果実が以来「むべ」と呼ばれるように――。この伝説がある近江八幡市北津田町は毎秋、宮内庁や天智天皇を祀る近江神宮(大津市)へ献上し、ムベの収穫体験やエキスを利用したワイン・飴玉の開発など、ムベによる町おこしに取り組んでいる。語源には他に昔朝廷に献上されたことに因む「大贄(おおにえ)」からの転訛説などもある。「女の瞳ひらきみつむる郁子の花」(岸田稚魚)