【雌雄異株、葉は七夕の短冊代わりにも】
本州中部~九州の山野に自生するクワ科コウゾ属(カジノキ属とも)の落葉木で、樹皮の繊維が強いため古くから和紙の原料として栽培されてきた。単に「カジ(梶)」と呼ぶことも。日本のほか中国、台湾、インドシナ半島など東アジア~南アジアに広く分布する。雌雄異株で、花の形状が雌雄で全く異なるのが特徴。雌花は径1~2cmの球形で紅紫色の花柱が放射状に伸びる。一方、雄株の花序は長さ4~8cm、径1cmほどで穂状に垂れ下がる(写真)。
カジノキは同じ仲間のコウゾ、ヒメコウゾとともに総称して「コウゾ」と呼ばれることもある。コウゾはカジノキとヒメコウゾの雑種とみられている。ヒメコウゾはカジノキと違って雌雄同株。両者の交配で生まれたコウゾには雌雄の異株と同株のものがあるそうだ。これらはかつて差異が明確に識別されていなかった。カジノキの学名は「Broussonetia papyrifera(ブラウソネッティア・パピリフェラ)」、そしてヒメコウゾの学名が「B.kazinoki(カジノキ)」。いずれも江戸後期に来日したシーボルト(1796~1866)による命名だが、その学名そのものから混乱が見られる。シーボルトは和名のカタカナ表記でも前者に「カミノキ」、後者に「カジノキ」と記したという。
カジノキの葉は大きな広卵形で、厚く表面がざらつく。そこに文字を書くと墨が乗りやすいため、七夕飾りの短冊のように利用された。大阪の四天王寺が所蔵する平安後期の装飾経『扇面法華経冊子』(国宝)には、葉に和歌を書いた当時の七夕の習慣が描かれている。江戸前期の園芸書『花壇地錦抄』の中にも「梶 葉はふやうの葉のごとく也。世俗、七月七夕ニ此葉ニ詩歌ヲ書テ二星に献ずなり」。古くから神聖な樹木とされ、神社の境内などによく植えられてきた。諏訪大社(長野県)の神紋はカジノキの葉を図案化したもの(上社「諏訪梶」、下社「明神梶」)。地元の諏訪氏をはじめ安部氏、松浦氏など梶の葉紋を家紋とした大名も少なくない。