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あの日、母達は大変な雨の中、兄の元へ行きました。
Hのお宮参り、お食い初め、初節句と気になっていた三つのお祝い事を貴女だけがいない中、両家で無事済ますことが出来ました。神社はお天気がよければゆっくり拝見したいと思う、小ぶりながらも由緒ある建物のように見えました。
お姉さんのお里からやはり立派な兜が贈られてありました。女親のお里のありがたさです。
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頃の良いときを待っていた宮参りでしたが、母の作ったハレ坊主が余りにおかしかったのか効果がありませんでした。
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いざお宮に出発の時が雨もピークで、タクシーを使っても母のいっちょうらの靴が気になるくらいでした。
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儀式が終わると同時に泣き叫んでいたHですが、不思議なことがあったのですよ。
神主さんが祝詞を上げておられる間、母とHはじっと見つめ合っていたのです。
Hは瞬きもしないで、ただ私を見ていました。ずっと寝ていた時に一度あって以来のバーを、まるでこれが祖母かと認識するかのような真剣さで見つめているのです。
私も言いました。「Hちゃん、そうよ。私があなたのおばあさんですよ。よろしくね。仲良くしましょうね」
至福の時という言葉を聞きますが、正にそのような時間でした。
心が通い合った二人だけの空間でした。その時は誰にも言いませんでしたが、本当に幸せでした。
生きていればこんな体験が出来るのですね。
Kちゃん。貴女はまた外れましたが、出来るだけ参加するようにして下さい。
母のような体験がきっと出来ますよ。
「僕のおばさん?」「そう。あなたがたったひとりの私の甥っ子よ」
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扉の向こうに小さな椅子が