
先週金曜は南座の顔見世に行ってきた。
社会人になって以降、顔見世は恐らく初めて。
学生時代、祖母とその友達に誘われて
(当時)孝夫+勘九郎の「九段目」等を見て以来だと思う。
今回は一番値段の安い、標高の高い席。
それでも5,500円、はちとキツいな。
ネットで見ていると夜の部の方がチケットを取りやすそうだったので、
とりあえず昼の部から見に行くことにした。
「寿曽我対面」
我當の工藤祐経、秀太郎の舞鶴、
孝太郎・愛之助の十郎・五郎。
まあ、何がどうってことはない祝祭劇。
愛之助の五郎が溌剌としており、
それを止める孝太郎の十郎も良い雰囲気。
我當の工藤祐経は、まあ普通。
特に大きさを感じる、という程ではないが、違和感は特になし。
高座へ着くあたり、少し歩き方が危なっかしかった。
「お江戸みやげ」
見たことはないし、
中身も全く知らない演目。
川口松太郎作で昭和36年初演らしい。
第一場は湯島天神の芝居茶屋。
娘と女方の役者が好き合っており、
娘の義母がそれに反対している、という設定。
何となく歌舞伎というより新派っぽい。
「娘の結婚に反対する」設定もだが、
「湯島天神」から「婦系図」を個人的に連想しているためかも知れない。
ここに主人公であるお辻・おゆうという2人の呉服商が出てくる。
三津五郎・翫雀がそれぞれの性格を、
やや誇張気味ではあるが、よく描いていたと思う。
お辻の転換は少し極端過ぎるかも知れないが、まあ、分かりやすい。
梅枝の娘は別にどうってことはない。
違和感もなく、お行儀良くやっている印象。
愛之助の役者は、少しなよなよし過ぎているかな、と感じた。
第二場は娘と役者の逢引から始まり、
芝居を見て感激したお辻が役者を座敷に呼ぶ。
娘の義母が娘と役者が逢引しているところに飛び込み、
「金を出せ」と言うのに対し、
酔って気の大きくなったお辻が一冬かけて稼いだ金で
立て替えてやる、という場面。
このあたり、お辻とおゆうの逆転や
お辻に引っ張られるおゆうの演技が面白い。
無茶なストーリーでもあるが、
酔った勢い、田舎の「所帯破れ」した女商人の感激、といったところが
きっちり設定されているので、
あまり不自然に感じずに済んだ。
第三場はその後、湯島天神の境内。
おゆうが気を利かせて、お辻と役者が2人きりになれるようにしてやる。
襦袢の片袖をお辻が受け取り、その後お辻とおゆうの対話で幕。
お辻と役者が喋っている場面で
おゆうの荷物が灯籠のところに残っているのが少し引っ掛かった。
2人きりになるように慌てて娘を引っ張っていくので、仕方がないのかも知れないが、
何か上手い処理の仕方はないかなあ。
この場面で、第一場で出た角兵衛獅子の兄弟が登場し、
「この季節だけの、江戸での出会い」を印象付け、
「お江戸みやげ」の科白の仕込みをする。
このあたり、上手く作られた脚本と感じる。
全体に、やはり歌舞伎らしくない
(声も掛け辛いし、実際掛かっていなかった)のだが、
分かりやすくとっつき易い作品だと思う。
「隅田川」
藤十郎の班女の前、翫雀の舟長。
班女の前の花道の出。
既に「気が狂うか狂わないか」のギリギリでここまで来ていると思うのだが、
半ば狂気の雰囲気が感じられなかった。
清元に乗っての足の運びなどは流石なのだが。
あと、笹?の動きが目に付くのだが、あまり快くない。
現実には音に乗ったりするものでもないのだが、
芝居としては班女の前の状況・「狂い」が表現されるように、
一度作られ、昇華された状態になっているべきではないか、と思う。
舟長の物語。
翫雀には特に期待していた訳でもなかったののだが、別に悪くもなかった。
きっちりやっており、それなりに情が出ていたように思う。
後の班女の前の狂いは美しく表現されていたと思うが、
正直、ちと眠かった。
昼食休みの後、この演目はキツい。
能でも一度見ておきたい演目ではあるな。
「与話情浮名横櫛」
木更津の「見染」とお馴染みの「源氏店」。
「見染」は初めて見た。
まあ、付けても悪くないが、
「源氏店」の仕込み、とすれば
(あるかどうか知らないが)もう少し密会の場面などを入れないと
分かりづらいかな。
この幕そのものは、別に大したものではない。
「見染」の場面のお富・与三郎、
特にその後の与三郎が「羽織が滑り落ちても気付かない」描写、
といったあたりの様式を楽しめば良いのだと思う。
時蔵のお富は声質からも元「深川芸者」らしい感じ。
仁左衛門の与三郎はトロンとした放蕩の雰囲気が出ており、
この場面の様式もこってりとして楽しめた。
「源氏店」は、
狂言回しの番頭との絡み。
番頭のお富を口説く科白は少ししつこく感じた。
後とのバランスではクサ目の方が良いのかも知れないが。
その後蝙蝠安と与三郎が入ってくる。
蝙蝠安は菊五郎。
個人的には、市井の垢染みた小悪党、だと思うのだが、
菊五郎のは若干水気が残っている感じ。
もう少し枯れている方が良いと思う。
仁左衛門の与三郎は、頬かむりをして、
石を蹴ったり門口で座ったりしている様子が綺麗。
「いやさお富、久し振りだなあ」からの名台詞も流石。
「百両百貫もらっても」や
「そりゃああんまりつれなかろうぜ」といったあたりは、
誰がやっても15代目羽左衛門の調子になるのかな。
お富を囲っている(色事は何もない、という)多左衛門は左團次。
やはりハラが薄い、と感じてしまう。
お富与三郎の様子や台詞の調子で、全体には満足。
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