瀬戸際の暇人

今年も偶に更新します(汗)

異界百物語 ―第6話―

2006年08月12日 19時54分42秒 | 百物語
いらっしゃい、今夜もよく来てくれたね。

さあ…何時もの席へどうぞ。


昨夜に続いて、今夜も水場に纏わる怪異をお話ししよう。


日本でも外国でも、大抵の水場には怪異が付き纏う…

これは何故だか解るだろうか?


実際に事故が多かったのも有るのだろうが、水難から…主に子供を守る為でもあったのではないだろうか?


そんなような事を思いながら、今夜の話を聞いて頂きたい。



スコットランド高地地方の海や湖には、『アハ・イシカ』と言う名の、恐ろしい水棲馬が居ると言い伝えられている。

普段は毛並の良い美しい馬の姿をしているが、もしもうっかりその背に乗ろうものなら、一気に水の中に引き摺り込まれて食べられてしまうと言う。


パースシャーのアバーフェルディー近く、小さな湖畔で有ったと伝えられてる話だ。


或る日曜の午後、7人の少女と1人の少年が連れ立って散歩に出掛けた所、湖の近くで可愛い仔馬が1頭、草を食べているのを見付けた。

仔馬は大層白く美しい毛並をしてい、少女と少年の姿を見ると、人懐こく側に擦り寄って来た。

1番年上の少女が気に入り、仔馬の背によじ登ると、皆にも登って来る様、声を掛けた。

少女達は1人づつ、次々とよじ登った。

全員乗っても、まだまだ余裕が有る様に見える。

しかし用心深い性格だった少年は、仔馬が少女達を背に乗せる度に、少しづつ体が大きくなっていってるのに気が付いていた。

その為、湖の近くに有った大きな岩の陰に、こっそり身を隠した。


すると突然仔馬が振向き、少年を見て人間の言葉で、「来いよ小僧、背中に乗れよ!」と喚いた。


驚いた少女達は一斉に悲鳴を上げ、飛降りようとする。

…しかし手が仔馬の背にくっ付いて離れない。

仔馬は少年を捕まえようと、岩の間を出たり入ったり走り回った。

けれども少年はすばしこく逃げ回り、岩場の更に奥へと、必死で走り込んだ。


仔馬は遂に諦め、泣き喚く少女達を背に乗せたまま、湖の中に飛び込んでしまった。


………翌朝、7人の少女達の肝臓だけが、湖岸に打上げられていた。



「…だから決して、自分達だけで水場に行っちゃいけないよ。解ったかい?」

そんな、昔のお母さん方の声が聞える様な気がしないかい?


…今夜の話はこれでお終い。


さあ…それでは6本目の蝋燭を吹き消して貰おうか…


……有難う……また次の訪問を、待っているよ。

そう言えば明日、関東では迎え盆だね…。


道中気を付けて帰ってくれ給え。


いいかい?……くれぐれも……


……後ろは振り返らないようにね…。



『妖精Who,s Who(キャサリン・ブリッグズ、著 井村君江、訳 筑摩書房、刊)』より、記事抜粋。
コメント
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