せんまつ・しんや 1974年生まれ。京大在学中に狩猟免許を収得。猟師。 狩猟のノウハウ詳しく
ぼくは猟師になった 価格:¥ 1,680(税込) 発売日:2008-09-02 |
評・森 毅 (数学者)
京大教養部が学生に占拠されていた時代、親しくしていた学生が全共闘の親分で、占拠を始めた夜に、鶏を絞めて用務員室へ挨拶に行 って酒を飲んだと聞いて、さすがと感心したことがある。この時代は、教授と学生の関係で語られることが多いが、それを支えるベ-スの生 活があったのだ。その後、学生部員や評議員をしていたころ、吉田寮との接触が多かったから、著者とも逢っているかもしれぬ。ス-パ-の にいころは、家で飼っていた鶏や兎を食べるとき、自家で解体処理するのが普通だった。肉食では、こちらのほうがル-ルだろう。日本文化
は農耕文化という通念があるが、その前には狩猟文化があったわけだし、今でもわずかに残っている。農耕文化の性格を知るためにも、狩
猟文化をもっと知ってよい。そこ著者は狩猟になった。鹿や猪を罠で捕らえて解体調理するのは、とてもたいへん。鴨や雀、鮎や鰻はそれ
ほどでもなかろうが、それなりのノウハウが必要で、すぐにできるわけではない。そうした著者の体験がおもしろい。実用書にもなるよう
にと、罠のかけ方や、解体のやり方や、保存食の調理法まであり、皮のなめし方や薬剤として猪の肝の製作法も。これらは狩猟への偏見を
なくすのに有効だろうが、ぼくにはとても無理、読むだけで勘弁てね。狩猟採集と言われるが、採集についてもほんの入り口が書かれてい
る。しかしこちらは有毒な茸や山草もあるから、著者のようになんでも食べてみるわけにいかぬ。それに狩猟に比べて採集については、
まだ生態系維持のル-ルが未熟なようだ。自然との共生が説かれることがあっても、たいていは感傷のレベルで、実戦と縁の遠いぼくが言
っても説得力はなかろうが、せめて本で読んで体験もどきを想像力で補うのが読書というものの効用なのだから。