身の丈 味、雇用第一規模追わず
後志管内余市町で海産物の薫製作りを続ける 「南保留太郎商店」の二代目、南保敬二社長 (60)は昨年末、長野からやって来た百貨店の バイヤ-と向き合っていた。「ぜひ、うちの北海 道物産展に出てもらえませんか」。バイヤ-の 申し出に南保社長は言った。「申し訳ないが、そ ういう話はお断りしているんです」。食品添加物を使わず、味付けは 塩やみりんなど昔ながらの調味料だけ。本物の味を求めて余市ま で足を運ぶ客のほか、全国から電話やメ-ルでの注文が引きもきら ない。顧客名簿は約3万人に及ぶ。各地の百貨店から物産展や常 設店の出店依頼が相次いでいるが、南保社長は断り続けている。
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「保存料を使わないため、目が届かないところに商品が出回ると、味 が落ちてしまう」のが理由。唯一商品を卸すのは、長年の知り合いか ら頼み込まれた札幌の百貨店だけだ。景気悪化で自動車や電機など 大手メ-カ-が大幅な減産を強いられるのをよそに、南保社長は「大 量生産は、それがダメになつた時に経営もおかしくなる」といたずらに 設備と人を増やさない方針を貫いてきた。一方で7人の授業員に毎 年、新製品の開発を課す攻めの姿勢も忘れず、年商は今や約7千万 円。この不況でも売り上げが落ち込むことはない。帝国デ-タバンクに よると、昨秋からの不況の影響で、昨年1年間の全国の倒産件数は 前年比約15%増の約1万2600件に上った。経済基盤の弱い道内 は、約470件と前年より約30%も増えたが、こうした「身の丈経営」は 強みを見せる。「天狗まんじゅう」で知られる岩見沢市の「天狗まんじゅ う本舗」も規模を追わない。食品添加物を使わず、素材を生かした素朴 な味が人気で、午前中に売り切れる日もあり、各地からの出店要請も 多い。しかし、斎藤美枝子常務(58)「これ以上の規模になれば、味が 雑になる」とパ-トを中心に授業員15人の体制を守り続ける。
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昨年12月に倒産した松本建工(札幌)は過大な宅地開発が重荷に なった。1月に民事再生法の適用を申請した丸井今井(同)も、景気 の波を見誤った設備投資が足かせになった。時代が激変する中で 将来も存続していくため、規模拡大を目指すのは企業の宿命だ。し かし、バランスを欠いた巨体は、かえって足元を危うくする。「身の丈 経営」は巨額の富を生み出さない代わりに、経営基盤を強固にし、 従業員の雇用を守る。天狗まんじゅう本舗の斎藤常務は「パ-トの 人も生活がかかっている。広めてダメになれば、影響は大きい」と自 戒する。その屋号は、先代社長らが「天狗にならないように」との思 いも込めて使い続けてきたという。
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