配合飼料の価格が高騰する中で、「コストが安 く、環境にも優しい」と、自前の牧草地の草を主 体に牛を育てる「放牧酪農」に注目が集まってい る。もともと広い草地を持つ北海道は放牧に適し ているとあって、釧路、根室地域では農協、町ぐ
るみで取り組む動きも活発化している。搾乳は午前六時、午後五時 半の1日2回、牛舎で行う。時間になると、放牧中の牛を呼ぶ。搾乳 が終わると、牛は再び外へ。五月末から十一月初めまで牛は夜も屋 外で過ごす。夏の間、牛は草を食べているため、配合飼料が少なく て済み、餌を与える手間も省ける。 道酪農畜産協会の調査(2004年)によると、草などの自給飼料を 70%以上使用する農家の一頭あたりの搾乳量は、平均を20%ほど 下回るが、所得率はコストがかからないため逆に1・8倍になる。メリ ットはコストだけではない。「牛はストレスが減るので、病気にもなりに くい」。その上、牛の数と草地の広さのバランスが保たれ、「草地で処 理できないふん尿が川などに流れ出すことなく、環境にやさしい」。 農水省によると、配合飼料価格はトウモロコシなどを原料とする燃料 向けバイオエタノ-ル需要増加、円安などの影響で、今年に入って 急騰。7~9月の価格は、1㌧あたり五万三千七百三十円と、前年 同期に比べ24%もアップしている。同農協は4月、放牧の先進地 ニュ-ジ-ランドに幹部職員二人を派遣。策定中の今後五年の酪農 の方向性を示す計画に、草地の効率的利用を目指す酪農体系を提 案する考え。根室管内別海町も町地域農業振興計画を見直す中で、 放牧主体の「草地型酪農の確立」を盛り込む方向で検討中とのこと。
北海道農業研究センタ-が普及、拡大を目指しているのが、「集約 放牧」の手法だ。飼育方法は広い草地に牛をただ放すのではなく、 牧さくで区切った牧草地を順に変えながら放牧する。このため牛は 伸びてくる若い草を食べる。若草は栄養価が高く、消化率も高い。 集約放牧は草地管理と、どれくらい草を食べているか、牛の栄養管 理が課題だった。これに対し、牧草は寒さに強く、再生の早い改良 新品種を使う。あごの振動が分かる検知器を牛の首にぶら下げ、 食べた草の量を測定するなど技術の改良が進んでいる。この集約 放牧による生乳は黄色みが強い。同センタ-の集約放牧研究チ- ム長は「若草のおかげで緑黄色野菜に多く含まれるベ-タカロテン が普通の牛乳の二倍になるため」と説明する。この牛乳を原料とした カマンベ-ルチ-ズの製造、販売も昨年から十勝管内のチ-ズ工房 で期間限定で始まった。昨秋、東京の百貨店で開かれた食品フェア で集約放牧の牛乳のチ-ズは他のチ-ズの三倍の売れ行きだった。 消費者に聞くと「軟らかくて口溶けが早い」「味が濃厚」が購入の理由 だった。放牧が行われる期間中は味が微妙に変わり、春チ-ズ、 夏チ-ズ、秋チ-ズと季節の違いもアピ-ルして販売できるという。 飼育方法で変わる牛乳とチ-ズ。その可能性をさらに広げてほしい。 内外の放牧事情に詳しい酪農学園大の荒木和秋教授は「配合飼料 を与えないと乳量を確保出来ない、と誤解している農家も多い。放牧 は飼料自給率と収益性を向上させ、暮らしにゆとりも生まれる。穀物 価格の高騰、環境問題などへ対応するためにも、北海道酪農が目指 す道は放牧しかない」と指摘している。
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