都会の孤独 まち分断する高齢化
東京都多摩市の「多摩ニュ-タウン」-。副都 心の新宿から私鉄で四十分ほどのこのベットタ ウンにも、高齢化の波が押し寄せる。止めどない 荒波は住民の足元を浸食し、ここにも限界集落を つくろうとしていた。
見えぬ境
「ニュ-タウンどころか、もうオ-ルドタウンさ」。 地元商店街で菓子店を経営する永井照章(58)は 自嘲気味に語ると、お年寄りがまばらに行き交じ る通りに目を移した。ニュ-タウンが開発されたの は1970年代。地元の諏訪・永山地区には、都営 と独立行政法人・都市再生機構の賃貸団地、それに同機構が手がけた 分譲団地がある。そのいずれねが千戸単位の巨大団地を形づくつて いる。どこにでも訪れるはずの高齢化。だが、その影響がどこも同じだ とは限らない。分譲団地に現役世代が多いのに対し、賃貸団地には もっぱら年金生活者が住む。最近はその賃貸団地の中で、機構の団 地から、家賃が半分ほどの都営に移り住む高齢者が増えてきた。年 齢差や収入差に従った流れが、ニュ-タウンを三つに分断する。見え ない境界線を意識するかのように、分譲団地に足を踏み入れることは あまりない。独り暮らしの高齢者が多くなった都営賃貸団地は社会的 な孤立を深め、孤独死が目立つようになった」(地元住民)地元で一級 建築士として働く秋元孝夫(59)は10年ほど前、そんな団地の変化に 気が付いた。NPO「多摩ニュ-タウン・まちづくり専門家会議」(通称・ まちせん)を立ち上げたのは、小さな変化の中に衰退の兆しをかぎ取っ たからだ。秋元はいま、まちせんの理事長として、商店街の七夕祭り の復活などまちの活性化に奔走。団地住民らに「特定の賃貸団地に 高齢者が集中する流れを変えていかないと、現代のうば捨て山ができ る」と訴える。
けん引役
なおも人口が増え続ける首都圏。過疎化とは無縁ながらも、足元は磐 石とは言えない。政策研究大学院教授の松谷明彦(62)は「高齢化が 顕著な北海道など地方の陰に隠れて目立たないが、これからは大都 市でも急速に高齢化が進む」と指摘する。首都圏に一極集中的な人口 増が続くとしても、20-30歳代の人口構成は既に高齢化が進んだ地 方と大差がなくなると予測する。むしろ、首都圏の方が経済成長力が 大きい分、いったん活力を失い始めれば、地方よりもその落差は大きい。 戦後、日本は都市部と地方を交通・通信網で結ぶことで、地方の発展 を伸ばしてきた。だが、都市部がけん引役を担えなくなれば、「もはやそ ういう政策はとりえない。大胆な政策転換が必要だ」と松谷は言い切る。 団地住民と一緒に再生に智恵を絞る高齢者用の部屋を造る。そして、 高齢者が入居している中層階をメゾネット型の(高層住宅の中で二階建 て風の意)広い部屋に改造し、子育て世代を呼び込む-。「各世代が混 然一体と暮らすまちにすれば、新たなニュ-タウンができる」。秋元は、 迫りくる重たい壁を押し返すように言葉に力を込めた。高齢化の波に押し 流されるように、かつて誇らしげに「ニュ-タウン」を冠した団地はその輝 きを失いつつある。それは多摩市だけで起きているのではない。 (敬称略)
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