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限界の先に<地方再生の道⑤>

2008-06-09 17:00:00 | 社会・経済

財政の歯止め                                                           常に市民自ら点検

100_0572 夕張市の財政破たんがきっかけだった。「うち                            のまちは大丈夫なのか」-。北海道から遠く離                            れた長野県にも、そんな心配が住民の間に少し                           ずつ広まっていた。昨年11月。「市の決算資料                            を公表しないなら、情報開示請求だって考えます                          よ」。松本市役所の財政課で、男性が思わず声                            を荒げると、市職員は表情を硬くした。

開示請求

声の主である手塚英男(69)は「市民が作る松本                          市財政白書の会」の世話人を務める。市に対して                          詳細な決算資料の開示を求めてきたが、市側はなかなか首を縦に振                らない。豪を煮やした手塚の口を突いて出たのが「開示請求」という言                          葉だった。松本市の財政は「健全」とされる。財政力指数(2006年度)                         は県内19市のうち、良い方から二番目。収入のうちどのくらいの割合                          を借金返済に充てているかをみる実質公債費比率も12・7%と「安全                         圏」ある。だが手綱を緩めれば、財政は途端に悪化の坂道を転げ始め                          る。天下の台所は役人に任せておけばいい-。手塚の目には、旧城                          下町の松本市がそんな「官高民低」の体質に今も凝り固まっているよ                          うに見える。以前、市民芸術館の建設計画が市民を二分した際に反対                         運動に加わったのも、そんな旧態への疑問に突き動かされたからだ。

ばらまき

前市長が打ち出した同施設の建設計画は市長選の争点に発展。結局、                         同施設は4年前に完成したが、140億円もの建設費を投じながら、今                          は月10回ほどの催事にしか利用されていない。選挙を意識し、目に見                         える成果を示そうとする“点取り行政”。地方政治にも国政の予算のば                          らまきに似た体質が潜む。「市民が税金の無駄遣いを目にした時には、                          財政は既にむしばまれ始めているんじゃないか」。市がようやく開示した                        決算資料を基に財政の分析を始めた手塚は言う。松本市は38の第三                          セクタ-に出資する。三セクの経営が立ちいかなくなれば、市が損失を                         補償する。その契約は三セクに公的な信用を与える一方で、三セクの経                        営難がそのまま市財政の悪化につながる危険性を抱えている。市民有                         志でつくる「松本市の財政を考える会」は昨年、三セクとの損失補償契                         約を解除するよう市に求めた。三セクの発芽玄米販売会社が経営難に                         陥っていたからだ。同会代表の胡桃裕一(45)は「市議会が予算執行を                         点検すればいいのに、何もしないから市民が動くしかない」と憤る。市民                        の無関心が、政治や行政の横暴を許してきた。そんな反省から、地元自                        治体の財政を市民自らが監視する「平成の民権運動」が全国に広がりつ                        つある。先駆けは01年から活動を始めた東京・日野市。今では「さっぽ                         ろの『おサイフ』を知る会」など全国約50の自治体で市民が財政分析に                         取り組む。鳥取県知事時代に改革派知事として知られた慶応大学院教                         授の片山善博(56)は、住民自治の新たな動きにエ-ルを送る。「自治                         体財政は公の台所だ。家計のやりくりに腐心するように、市民が自治体                        の歳入・歳出に目を光らせることは民主主義の原点だ」と。財政白書の                         会の手塚には、忘れられない光景がある。05年11月、訪れた夕張市で                        ホテル・マウントレ-スイに宿泊。約3百人が収容できる朝食会場に、わ                         ずか3人の客しかいなかったのだ。その数ヵ月後、同市の財政破たんを                         報道で知ることになる。「松本が第二の夕張市にならない保証はどこにも                        ない」と手塚は思う。住民の暮らしの将来を左右する自治体財政。破たん                        のふちから戻るには多くの努力と苦難が伴う。そうなる前に何をすべきか。                       いま、重い問いかけが住民一人一人の前にある。    (敬称略)

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