受け皿 畑違いの参入危うさも
ところと゜ころ実が色づくイチゴの苗がビニ-ルハウス内に整然と並ぶ。渡島管内八雲長の農業生産法人、ト-ヨ-ファ-ムの従業員が、余分な花や実を摘む作業に追われていた。「府県産が減る夏場は高値がつくんです」。収穫を間近に控え、茂木貴史社長の言葉に力がこもる。
ト-ヨ-ファ-ムの母体は同町に本社を持つ東陽建設。公共事業の縮減が顕著となった2000年、事業多角化と従業員の雇用維持を目的に設立した。社員2人とアルバイト3人は同社出身で、パ-ト10人は新規採用した。大手洋菓子メ-カ-にも出荷されるイチゴや、スイ-トコ-ンの生産も軌道に乗って黒字化し、昨年の売り上げ高は2千万円。今後はイチゴジャムなどの加工事業にも乗り出す。かつて北海道の“主力産業”とも言われた公共事業だが、本年度の道開発予算は5855億円と10年前に比べて4割も減少した。仕事を失った建設業就業者の受け皿として注目されているのが農業だ。昨年9月現在、道内で農業に参入した企業の45%、64社を建設業関連が占めている。建設業以外にも、障害者の雇用確保を目指す社会福祉法人の参入が増えるなど、不況で雇用環境が悪化する中、農業への期待は強まるばかり。企業参入のハ-ドルを下げた改正農地法にも、地域の雇用を創出する狙いが込められている。
全国の6割赤字
だが、文字通り「畑違い」の企業による農業への挑戦には大きなリスクがつきまとう。道北の建設業者は昨年11月、葉物野菜サンチュのハウス栽培から撤退し、パ-トも解雇した。地元の市場に出荷していたが、安値に悩まされたうえ、「予想外の病気や暖房用の燃料高騰で、採算が合わなくなった」という。条件の悪い農地に苦労する企業も多い。農業に参入した全国の企業の6割強が赤字という調査結果もある。企業の参入が増えても失敗が相次ぐなら、地域の失業や農地荒廃はかえって増えてしまう。規制緩和はそうした負の側面を併せ持つ。03年に農業参入した橋場建設(名寄市)は、20棟以上のハウス栽培でトマトを大量生産し、高付加価値のトマトジュ-ス向けに出荷する事業モデルを確率し、ようやく、採算ラインが見えてきた。だが、参入当初はナガイモやブロッコリ-の生産が頓挫するなど試行錯誤を繰り返した。橋場利夫会長は「安価な輸入品など、食材があふれる時代に、どこでもやっているような方法では成功できない」と言い、地域の農業関係者らの助言に感謝する。改正農地法は企業や地域に「ばら色の未来」を保証するものではない。企業の粘り強い努力と周囲の協力があってこそ、果実がもたらされる。
メモ:日本の農業構造 農林水産省によると、2008年の全国の農家戸数は30年前のほぼ半数の252万1千戸、耕地面積(耕作放棄地は含まない)も16%減の462万8千㌶と縮小し続けている。ただ、道内は農家戸数が30年前に比べ、6割減の5万2千戸となったが、高地面積は116万㌶と逆に4%増えており、大規模農家への農地の集約が進む。専業農家が多い道内は、優良農地が起業に回りにくく、参入が失敗する一因となっている。
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