中山間地域の集落に活気 「関 満博」
近年、全国各地の農村に興味深いことが起っている。特に、全国の 各地の農家の夫人たちによる農産物の「直売所」「加工場」「農村 (家)レストラン」の展開がまことに興味深いものになってきた。いず れも農家夫人たちが共同で事業化し、自立的に運営されているとこ ろに注目すべき点がある。農村レストランが最も活発とされている栃 木県の中山間地域を訪ねてみた。栃木県では「地域の農業者が共 同で、または、市町村、農協等が主体となって、地域の活性化や農 業振興をめざし、地場農産物を農業者自らが料理して提供する施 設」を農村レストランと称している。財団法人・都市農山漁村交流活 性化機構の『きらめく農家レストラン』(2007年)を見ると、栃木県が 一番多い。06年段階で70店を数え、第2位の宮城県(42店)、第3 位の広島県(37店)を大きく引き離している。ちなみに北海道は第6 位の24店であった。
7割以上がそば店
また、栃木の農村レストランの営業品目は、圧倒的に「そば」であり、 08年現在の72店のうち55店(76%)を占めていた。そばは単品で 勝負できることから、農家の夫人たちでも手掛けやすいのかもしれな い。栃木県の中でも旧・今市市(現・日光市)の取り組みが注目され る。1990年代の始めごろ、当時の市長が農村の集落活性化のため に、地元産のソバを使った「そば屋」となると難しい。この点を栃木県 と協議を重ね、農家の共同経営であれば「そば屋」にも補助金が出 るようにしていく。建設費のほぼ半分が助成された。各集落がそば 屋の組合をつくり、組合員の夫人たちがそば打ちをうるという仕組み を形成した。おりしもバブル経済が重なり、順調にスタ-トしていった。 日光市の「手打ちそば店マップ」には130店が記載されているが、集 落の農家の組合による農村レストランは7店か゛紹介されているその 中の一つ、小百田舎そば組合の場合は、35軒の農家で設立され (一軒五万円の出資)、50歳から80歳までの18人の組合員の夫人 たちが交代で運営していた。8時半から16時半まで、時給870円。 来客数は年間6万人に達し、組合員への配当も20%を出していた。 日光の農村レストランのそば屋は、いずれも昼時は1時間待ちの盛 況ぶりだ。
原料は地産地消で
また、原料のソバについては、集落の農家に生産組合をつくらせ、地 産地消を原則にしていた。買い上げ価格を農協の倍程度に設定し、 農家の生産意欲を高めるなど、興味深い循環的なやり方だ。地元産 原料を使用し、付加価値を高め、集落に就業の場を形成し、高齢者 雇用を拡大させ、さらに、農業生産に意欲を持たせるという興味深い 取り組みであった。それは中山間地域の集落に大きな「希望」を与え ていた。(せき・みつひろ=一橋大学教授)
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