お箸*13 一膳

2016-10-30 | お箸の世界
 近所のスーパーでお弁当やお惣菜を買うと、

レジの方から 「お箸は何膳お付けしましょうか?」 と聞かれます。

このお店では、アルバイトの高校生でも 「何膳」 と言いますので、

マニュアル化されているのか、または口伝えで指導されているのでしょう。

一方、近くのコンビニでは、「お箸をお付けしましょうか?」 と聞かれます。

数の選択肢はありませんが、一人分という前提では的確な尋ね方です。

中には、「お箸をお付けしますか?」 と聞くレジ担当の方もいますが、

「お(ご) ~ する」 は、自分側をへりくだって述べる謙譲語ですので、

主語は 「私」 であり、「私はお箸を付けますか?」 という意味になり、

これではまるで、自分の意思を他人に尋ねているように聞こえてしまいます。


 さて、話を 「膳」 に戻しましょう。

細い棒状のお箸を数えるのに、なぜ 「本」 ではなく 「膳」 なのでしょう。

今でこそ皆でテーブルを囲んで食事をしますが、昔は銘々に 「お膳」 がありました。

半月や四角形の平たい 「お膳」(お盆) は、今でも定食などを載せますし、

二枚の板や四本の脚で支える、高さのある 「お膳」 も、旅館の宴会などで見かけます。

これらにセットされているのが、「ご飯」 と 「お箸」。

「お箸*10」 では 「一汁三菜」 についてお話しいたしましたが、

「一汁」 や 「三菜」 のように数字で書き表すまでもなく、

ひとつの 「お膳」 には、必ず 「ご飯」 と 「お箸」 がセットされています。

「ご飯とお箸が揃ってこそのお膳」 と言えば、少しオーバーかも知れませんが、

「ご飯」 も 「お箸」 も 「一膳」 と数えるのには、そんな背景があると思うのです。


 「ご飯」 については、「一杯二杯」 という数え方も一般的ですが、

「居候 三杯目にはそっと出し」

という川柳のためか、私には山盛りのイメージがあります

また、ご飯をお茶碗に盛ることを 「装う(よそう)」 と言いますが、

そこから転じて、「一膳」 のことを 「一装い(ひとよそい)」 とも言い、

炊き立てのご飯をふんわりと盛り付ける様子が感じられて、好きな言葉です。


 お箸を 「何本」 と数える人がいると、言い直すのも聞き流すのも後味が悪いものですが、

かく言う私自身、物の数え方(助数詞) を正確に使い分けているかと申しますと、

日本語の大きさ、広さ、深さの前では、謙虚でありたいと願うばかりです。


 長らくご無沙汰いたしておりました。
 お読みくださいまして、ありがとうございます

コメント (2)