秘書検定 65*『敬語の誤用』 (2)尊敬語を自分側に使う

2015-05-25 | 秘書検定
 「敬語」 というものは、登場人物が自分と相手の二人だけなら、

自分を低く、そして相手を高く述べておけば、まず間違いないのですが、

実際には会話の中に第三者が登場したり、その場に複数の人物が居合わせたりします。

その上下関係によって敬語の使い方が変化するのも、敬語を難しく感じる所以でしょう。


 職場にかかって来た で・・・

 「田中部長は いらっしゃいますか?

 「はい、いらっしゃいます。 少々お待ちくださいませ」

これなど、相手が使った尊敬語を、そのまま オウム返し にしてしまったのか、

はたまた、上司である部長を敬う気持ちが、そのまま言葉に出てしまったのか、

いずれにしても、相手 (お客様) は、思わず苦笑してしまうことでしょう。

まだ の応対に慣れていない新人さんに、ありがちなケースですね。


 では、次のようなケースはいかがでしょうか。

上司である田中部長の指示で、取引先を訪問します。

そして、田中部長から言付かった 「先方によろしく言ってくれ」 というメッセージを伝えるとします。

この場合、自社の上司は、自分にとっては 「立てるべき存在」 ですが、相手の前では 「自分側」 といたします。

  「田中部長が、よろしくとおっしゃっていました」
    これでは、「田中部長」 も 「おっしゃっていました」 も、「自分側の人間」 を立てることになります。

  「(部長の)田中が、よろしくおっしゃってくれと申しておりました」
    「おっしゃってくれ」 では、田中部長から 「自分」 への尊敬語になってしまいます。

  「(部長の)田中が、よろしくと申しておりました」
 

 それでは、取引先ではなく、自社の 「専務」 と 「常務」 の場合を考えてみましょう。

どちらも自分にとっては上司ですが、「専務」 と 「常務」 の間には上下関係があります。

第 84 回 秘書検定 3級では、このような問題が出されました。

  一般的な役職を、高い方を左にして順に並べたものである。 中から適当と思われるものを一つ選びなさい。

  1) 常務 専務 部長 課長
  2) 常務 部長 課長 専務
  3) 専務 常務 部長 課長
  4) 部長 課長 専務 常務
  5) 課長 部長 常務 専務

正解は 3番 ですが、この序列がしっかり理解できていますと、

「専務からの伝言を常務に伝える」 などの、上下関係による尊敬語の使い分けがポイントとなる問題にも、

自信を持って解答できることでしょう。

ちなみに、「専務からの伝言を常務に伝える」 場合は・・・

  「専務は3時に 来る とのことでございます」
  「専務は3時に 来られる とのことでございます」

  「専務は3時に お見えになる とのことでございます」
  「専務は3時に いらっしゃる とのことでございます」
  「専務は3時に お越しになる とのことでございます」

「来る」 はもちろんのこと、「来られる」 も、秘書検定では、上司の上役に使う尊敬語としては弱いとされています。

逆に、「常務の伝言を専務に伝える」 なら、「常務は3時に来られるとのことでございます」 となります。

「常務」 は 「専務」 よりも下位の役職ですが、「自分」 にとっては 「上役」 ですので、

決して 「来るとのことでございます」 とはなりません。 

************************************************************************************ 

 学生に 「序列」 を教えるとき、「部長」 と 「課長」 の上下を間違える人は少ないのですが、

「専務」 と 「常務」 はイメージしづらいのか、上記のような問題でつまずくケースが多々ありました。

そこで私は、「専務と常務に名前を付ける」 という提案をいたしました。

「祖父母様」 でも 「ご両親」 でも、または上司のイメージにぴったりの俳優さんでもよいでしょう。

「○○専務」 「△△常務」 という具合に、年齢的に上下関係のある方の名前を付けることで、関連問題をクリア。

すると学生たちは、兄弟姉妹や親戚の名前を、部長や課長や係長にまで付け始めてしまい、

気がついたら、同族会社が出来上がってしまいました


お読みくださいまして、ありがとうございます。 クリックしていただけますと励みになります。
にほんブログ村 資格ブログ 秘書検定へ
コメント (2)

秘書検定 64*『敬語の誤用』 (1)二重敬語

2015-05-02 | 秘書検定
 せっかくの敬語も、使い方を間違えてしまいますと、相手に敬意や心遣いが伝わらないばかりか、

かえって失礼になってしまうことさえあります。

敬語の間違えやすい使い方として、今日は 「二重敬語」 についてお話しいたします。

 
 一つの語について、同じ種類の敬語を二重に使ったものを 「二重敬語」 といいます。

たとえば 「歩く」 を尊敬語で表すには、

 1 尊敬語を作る公式 「お~ (に) なる」 に当てはめて、「お歩きになる」 

   例) 「ゆっくり お歩きになっても 10 分で到着します」

 2 尊敬の助動詞 「~ れる・られる」 を使って、「歩かれる

   例) 「バスの本数が少ないので、歩かれた方が早いと思います」

どちらか一方で尊敬語になるのに、両方を使って 「お歩きになられる」 と言ってしまう背景には、

「敬語は長いほど丁寧に聞こえる」 という思い込みがあるのかも知れませんね。

ただし、敬語を二重に使っても 「二重敬語」 には該当しない場合もあります


例外 1 習慣として定着している語

      「お召し上がりになる」 「お見えになる」

      「召し上がる」 「見える」 だけでも尊敬語になるのですが、

     「~ (に) なる」 を付けることが、習慣として定着 しています。


例外 2 敬語連結( ふたつの尊敬語を、接続助詞である 「」 で繋げたもの )

     例) 「お客様がお読みになっいらっしゃる」

        「お客様が読んでいる」 の 「読む」 と 「いる」 を、

         尊敬語の 「お読みになる」 と 「いらっしゃる」 にして、「」 で繋げた。
 
     例) 「お客様がお読みになっくださる」

        「お客様が読んでくれる」 の 「読む」 と 「くれる」 を、

         尊敬語の 「お読みになる」 と 「くださる」 にして、「」 で繋げた。

これらは、個々の尊敬語の使い方が適切であり、結びつきに不合理がないため許容されているものです。

*******************************************************************************

 秘書検定の面接試験では、来客役の面接官に対して、秘書になりきって話します。

第 92回の 「状況対応」(準1級) では、このような課題が出されました。

「 いらっしゃい。(お辞儀をする)

(前傾姿勢で言う) 山田部長はすぐに来るので、椅子に座って待ってくれ。(椅子を指し示す) 」

これを適切な敬語に直すのですが、解答例には次のように書かれています。(動作は省きます)

「 いらっしゃいませ。 

(部長の) 山田はすぐに参りますので、椅子にお掛けになってお待ちください(ませ) 」


「お掛けになっお待ちください」 という箇所が、「敬語連結」 に該当しますが、

」 を付ければよいというものではなく、前後の語を適切な尊敬語に整えることが必要です。
 
  「座ってお待ちください」 では、「座る」 が尊敬語になっていません。

  「お座りになって待っていてください」 では、「待つ」 が尊敬語になっていません。

  「お座りになられてお待ちください」 では、「お座りになられ」 が 「二重敬語」 です。
 

 ところで、課題文の 「座る」 が、解答例では 「掛ける」 になっていることにお気づきでしょうか?

「座る」 と 「掛ける」 の違いは?

畳や床には 「座る」 と言いますが、脚の付いた椅子やソファーには、「座る」 も 「掛ける」 も使います。

そういう意味では、「掛ける」 より 「座る」 の方が、使用範囲が広いと言えるでしょう。

また、「掛ける」 よりも 「座る」 の方が、時間が長くなる場合に使うと聞いたことがあります。

昔は、「お嫁に行くまでの、ほんの腰掛け」 と言って、社会勉強のために働く女性もいましたっけ。

 さて、「食べられる・飲まれる」 より 「召し上がる」 、 「着られる」 より 「お召しになる」 の方が、

そして 「お座りになる」 よりも 「お掛けになる」 と言った方が、スマートではありませんか?

相手の動作をそのまま述べるより、別の言い方をした方が奥ゆかしく、上品に聞こえるようです。

ちなみに座布団を勧めるときは、「お座りください」 ではなく、「どうぞ おあてください 」 と言います。

ひとつの動作にも、さまざまな言い方があります。

それもまた、日本語の魅力ですね。


お読みくださいまして、ありがとうございます。 クリックしていただけますと励みになります。
にほんブログ村 資格ブログ 秘書検定へ
コメント (2)