前回「#4-2」では、Hの全ての置換に、τ⁻¹στの操作をすれば、H₁の全ての置換を得る事が判った。
つまり、K(r)のガロア群がH、K(r₁)のガロア群がH₁、K(r₂)のガロア群がH₂、…とする。但し、h(x.r)=0の根の1つをV、h(x.r₁)=0の根の1つをV₁、h(x.r₂)=0の根の1つをV₂、…とした時、τ₁:(V→Vₖ)、τ₂:(V→V₂ₖ)、…とすれば、H₁=τ₁⁻¹Hτ₁、H₂=τ₂⁻¹Hτ₂、…が成立する事を結論づけた。
これは、置換τᵢをガロア群の要素とすると、現代の記法に従えば、”Hはガロア群の正規部分群”となる。
そこで今日は、第3節の正規部分群の発見について述べたいと思います。
第7章〜正規部分群あらわる
第3節では、ガロアは”与えられた方程式に補助方程式の全ての根を添加すれば、(前々回「4-1」の)[定理2]で議論した群の置換は同一になる”[定理3]と述べ、”証明は思いつくだろう”と書いている。
「4-1」の第2節では、Kにrを添加した体Kのガロア群がHであったが、Hはrを変えない置換の集まりだったから、例えばrを変えずr₁をr₂に変える様な置換も含まれる。
そこで、Kに素次数pの補助方程式s(y)=0の根r,r₁,r₂,…,rₚ₋₁を全て添加したK(r,r₁,r₂,…,rₚ₋₁)のガロア群をJとすると、Jはr,r₁,r₂,…,rₚ₋₁を変えない置換の集まりである。
つまり、元の方程式のガロア群Gと群H、群Jの関係は以下の様になる。
体Kの元――群Gの置換で不変
体K(r)の元――群Hの置換で不変
体K(r,r₁,r₂,…,rₚ₋₁)の元―群Jの置換で不変
体K(V)の元――{ε}で不変(つまり、ε以外のあらゆる置換で変化する)
これら群の包含関係は、G⊃H⊃J⊃{ε}となる。
ここで、「#4-2」の第2節(2)で議論した群の置換とは、順列F(V)から順列F(V’)に移行する為には、順列(V)から順列(V’)に移行するのと同じ置換を施す必要がある事だった。つまり、第3節はこの結果が全部等しくなる事を言っている。
そこで、rᵢをrⱼに変える置換をτとする。τがrᵢ→rⱼならばτ⁻¹がrⱼ→rᵢに注意し、τ⁻¹Jτの任意の置換でτがどう変化するかを調べる。
まず、τ⁻¹でrⱼ→rᵢである。次に、Jの置換はr,r₁,r₂,…,rₚ₋₁を変えないのでrᵢ→rⱼとなり、更に、τでrᵢ→rⱼとなる。故に、τ⁻¹Jτはrⱼを変えない置換の集合となり、τ⁻¹Jτ⊃Jが成立。
ここで、τを左からτ⁻¹を右から掛け、τとτ⁻¹を入替えるとJ⊃τ⁻¹Jτとなり、τ⁻¹Hτ=Hを得る。Jの元θとτ⁻¹Jτの元τ⁻¹θτが1対1対応からも明らかですね。
この様に、ある群Gの部分群HがGの全ての元τに対し、τ⁻¹Hτ=Hが成立する時、”HをGの正規部分群”という。この式は左からτを掛けるとττ⁻¹Hτ=τHとなり、Hτ=τHを得る。
つまり、HはGの全ての元と交換法則が成立する。但し、Hの元1つ1つが可換ではなく、Hという1つの塊が・・という意味である。
また、τ⁻¹=σとするとσ=τ⁻¹なので、σHσ⁻¹=Hとなり、τ⁻¹Hτ=HとHτ=τHとτHτ⁻¹=Hの3式は同じとなる。
以上より、この第3節でガロアしか見抜けなかった”正規部分群”が現れた事になる。
そこで、正規部分群と対称群の関係だが、例えば、3次対称群S3={ε,(12),(13),(23),(123),(132)}を考える。εは単位置換、(12),(13),(23)はそれぞれ3,2,1を固定した互換、(123),(132)は右左の巡回置換である。故に、巡回置換(abc)はa→b→cとなる。
この時、H={ε,(123),(132)}は正規部分群になる。そこで、Hの1つ1つの元に対し、Hに含まれない元(12)を持ってきて、左から(12)⁻¹を右から(12)を掛けると、但し、置換の積は右から操作するので、(12)⁻¹ε(12)=ε、(12)⁻¹(123)(12)は123→213→321→312=(132)、(12)⁻¹(132)(12)は123→213→132→231=(123)となる。但し、312は1→3,2→1,3→2になる置換なので、(132)となるのは明らかですね。
故に、(123)と(132)は入れ替わるが、Hとしては変化しない。
因みに、長さ(位数)2の巡回を互換と言い、長さ(位数)3の巡回置換(123),(132)は正規部分群を成す。また、(全ての元で交換法則な成り立つ)可換群ではあらゆる部分群が正規部分群となる。一方で、εは任意の置換でτ⁻¹Hτ=τ⁻¹τ=εが成り立つので、全ての置換群の正規部分群となり、故に、{ε,(123),(132)}が正規部分群になる事が言えた。
因みにガロアは、こうした性質を持つ部分群を”正規”とは名付けなかったが、その重要性を最初に示したのはまさに彼の偉業である。
「ガロアの論文を読んでみた」の金重明氏は”名を正す”との孔子の言葉を挙げてるが、数学では定義や記号の前に”名前をつける”という行為はとても重要な事である。
という事で、珍しく短いですが、今日はここで終了です。次回は第4節で正規部分群の定義について述べたいと思います。
コメントいつも有り難うです。
全く同感です。
置換の計算も慣れないうちは結構ややこしいですよね。
3次のガロア群ならば6個の置換だけで済むが、それでも位数2と位数3の計4つの部分群について(部分群に含まれない元を取り出し)右剰余と左剰余を計算し、正規部分群かどうか1つ1つを確認する必要がある。
私はこの時点で無理っぽですが、4次のガロア群となると置換は24個で、部分群は24の約数(2,3,4,6,8,12)の元を持つ部分群を調べる必要がある。
殆どはこの時点でアウトですが、ルフィニは120個の置換を1つ1つ調べたんですよね。
全くどんな頭してんのか?こっちが聴きたいくらいです。
ルフィニって人は
5次方程式のガロア群について5次の対称群の置換120個を全て調べたんでしょ
3次対称群の置換の6個だけでも頭が混乱しそうなのに
数学者ってどんな頭してんの(*_*)