世界の成り立ちに挑む
物質を細かくしていくと分子や原子になることは誰もが知っている。原子は、さらに原子核と電子に分かれる。原子核は陽子と中性子に分かれ、陽子や中性子はクォークとレプトンでできている。ここまでは聞いたことがあるかも知れない。
さらに先端科学では、なぜ、世界にはたらく力には3種類あるのか。なぜすべての物質に重さがあるのかという問いに答を出そうとしている。これらを説明する粒子としてグルーオンやウィークホゾン、ヒッグス粒子などを考えだした。このうちヒッグス粒子だけは未だに発見されていない。
普通の人にとっては、どんな力があろうと、質量があろうがなかろうが、どうでもいいことかも知れない。しかし、この世界の成り立ちに関係するしくみを、人が考えられることが素晴らしいことであり、日本人の得意な分野で、ノーベル物理学賞で何人も受賞者を生み出したのが、この素粒子物理学の世界なのだ。
自発的対称性の破れと相転移
2008年にノーベル物理学賞を受賞した、南部氏の受賞した研究「自発的対称性の破れ」によると、質量が生まれたのも自発的対称性が破れて相転移が起きたからだという。
もとはクォークもレプトンも質量はなかったが、ビッグバン直後に現れたヒッグス粒子が崩壊してヒッグス場をつくると、これにクォークやレプトンは反応して、質量が生じ、動きが遅くなる。ただ光子のみがこれに反応せず、質量はないという。
例えて言えば、百メートル12秒で走れる人でも、プールの中では水の抵抗を受けてゆっくりしか走れない。この水の役割をするのがヒッグス粒子だ。
「自発的対称性の破れ」では、このように一見、常識では考えられない現象が起きる。これを「相転移」というが、身近な例をあげると、磁力のない鉄が、磁界の中で突然磁力を持つようになったり、物質を低温にすると、超伝導現象が見られたりするのが「相転移」である。
ヒッグス粒子とダークマター
さて、未だに発見されていない、ヒッグス粒子とともに、発見されていないものとして、宇宙の1/3を占めるといわれるダークマターがある。
先日、大阪大の細谷裕教授が、ノーベル賞を受賞した南部陽一郎博士の理論からその存在が予測されたヒッグス粒子が、宇宙を満たす謎の暗黒物質(ダークマター)と同じものであるという新理論をまとめた。
“二つの粒子”は、物理学の最重要テーマで、世界中で発見を競っている。暗黒物質は安定していて壊れないが、ヒッグスは現在の「標準理論」ではすぐに壊れるとされており、新理論はこれまでの定説を覆す。証明されれば宇宙は私たちの感覚を超えて5次元以上あることになり、宇宙観を大きく変える。
ヒッグス粒子は崩壊するか?
ヒッグスは、質量の起源とされ、普段は姿を現さないが、他の粒子の動きを妨げることで、質量が生まれるとされる。
一方、衛星の観測などから宇宙は、光を出さず安定した暗黒物質で満ちていると予想されている。細谷教授は、宇宙が時間と空間の4次元ではなく、5次元以上であると考え、様々な粒子が力を及ぼしあう理論を考えた。その結果「ヒッグスは崩壊せず、電荷を持たない安定した存在」となった。
欧州にある世界最大の加速器(LHC)では最大の課題としてヒッグスの検出実験が行われる。ヒッグスが不安定なら、崩壊時に観測が可能だが、細谷理論のように安定だと観測できないという。ただ、新たな実験手法で検証は可能という。
一方、暗黒物質候補も2009年末、「発見の可能性」が報告されたが、細谷理論と矛盾しないという。
細谷教授は昨年8月に欧州の物理学誌に新理論を発表。秋に来日した南部博士にも説明した。南部博士は「今まで誰も気づかなかった見方で、十分あり得る」と評価したという。
小林富雄・東京大教授(素粒子実験)の話「美しく素晴らしいアイデア。数年で新理論を検証できる可能性がある」(2010年1月5日 読売新聞)
ヒッグス場とヒッグス粒子
ヒッグス粒子とはヒッグス場を説明するために考え出された。ヒッグス場とは、1964年にエディンバラ大学のピーター・ウェア・ヒッグスによって提唱された、素粒子の質量獲得に関する理論に現れる場についての仮説である。ヒッグス場によって質量を獲得するメカニズムをヒッグス機構と呼ぶ。
ヒッグス機構では、宇宙の初期の状態においてはすべての素粒子は自由に動きまわることができ質量がなかったが、自発的対称性の破れが生じて真空に相転移が起こり、真空にヒッグス場の真空期待値が生じることによってほとんどの素粒子がそれに当たって抵抗を受けることになったとする。
これが素粒子の動きにくさ、すなわち質量となる。質量の大きさとは宇宙全体に広がったヒッグス場と物質との相互作用の強さであり、ヒッグス場というプールの中に物質が沈んでいるから質量を獲得できると見なすのである。
ヒッグス粒子と加速器LHC
光子はヒッグス場からの抵抗を受けないため相転移後の宇宙でも自由に動きまわることができ質量がゼロであると考える。では、ヒッグス場は本当に存在するのだろうか?
電磁場が存在すれば光子があるように、ヒッグズ場が存在すればヒッグス粒子が最低1種類あるはず。ヒッグス粒子の性質は理論でよく予言されているので、どのような方法で発見するかはわかっている。
これまでの実験でまだ発見されていないので、ヒッグス粒子は114 GeV より重いはず。理論の予言もまた間接的実験結果も、ヒッグス粒子は 1000 GeV (1兆電子ボルト)より低い領域に存在すると強く示唆している。
とくに 200 GeV より低い事がかなりの程度の確率で示唆されている。このエネルギー領域には次世代の加速器LHC(スイスで建設、2009年11月再開)やILC(計画中)で到達できるので、ここ10年以内にヒッグス粒子は発見される可能性が非常に高い。
標準理論とは?
素粒子物理学の三つの基本的な力すなわち強い力、弱い力、電磁力を記述する理論である。正確には、強い力の量子色力学と、弱い力、電磁力のワインバーグ・サラム理論、南部博士の理論、小林・益川理論を合わせたものなどが基礎になっている。
それは場の量子論的方法で記述されているため、量子力学と特殊相対性理論の両方と整合している。今までのところ、三つの力に関するほとんどすべての実験結果は標準模型による予言と一致する。ただし、ニュートリノは質量ゼロの粒子として定義しているため、ニュートリノ振動などの実験結果を説明するためには修正が必要である。
したがって、標準理論は基本的な力の完全な理論ではない。その理由として、先の三つの力の統一ができていない(大統一理論、超対称大統一理論を参照せよ)ことがあげられる。さらに、重力について何も記述していないことも大きな問題である。
参考HP Wikipedia「ヒッグス粒子」・キッズサイエンティス「やさしい物理教室」
場の量子論とは何か―統一理論へ近づくための根本原理 (ブルーバックス) 和田 純夫 講談社 このアイテムの詳細を見る |
宇宙を支配する暗黒物質(ダークマター)とは何か!?―人類起源から量子論まで、解かれざる謎に最新科学が挑む (PHPビジネスライブラリー) 大浜 一之 PHP研究所 このアイテムの詳細を見る |