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「すべてがFになる」 森博嗣 講談社 KODANSYA NOVELS

2012-11-14 | 読書



「F」というキーワードはITシステムに関わる技術系の人なら意味(謎)は簡単に解けるかもしれない。

この作品に1996年第一刷が発行された当時のインターネットシステム事情が絡まっていると知っていたら、そういう心構えで読んだだろう。

末端は使えるが、プログラミングの特殊言語や、システムの構成などはよく分からない。

それでも、パソコンを使う上で興味のある話題も多く、そういった面ではとても面白かった。

ショッキングな殺人事件は、孤島にある閉鎖的な研究所の建物の中で起き、現場は出入りをモニターするカメラでガードされているという、三重の密室で起きた。
推理小説らしい本格的な舞台設定に惹かれて選んだ。

作者も初めてだった、本の題名はよく見かけていたが、作品を読み始めた時はすでに遅く、森博嗣さんは作家活動の停止宣言をしていた。

* * *

N大の犀川工学部助教授のゼミは、恒例の夏休みの親睦会で三河湾にある孤島でキャンプをした。
この島には、真賀田四季の研究所があった、この島でのキャンプは西之園萌絵の人脈で許可されたのだった。

真賀田四季は天才少女と呼ばれていたが、14歳のとき研究所内で両親が殺され、一時彼女が容疑者として取り調べられた。
その後、容疑は晴れたが、人との接触を嫌った彼女は島の研究所に閉じ籠って、15年が経つ。

研究所は、彼女の構築したレッドマジックというオリジナルシステムで全てが動いていた。それさえあればセキュりティも万全で、日常生活も支障がなかった。
サブシステムの「エボラ」が研究員の命令を感知して働いていた。
所員は割り当てられた部屋にこもって、さまざまな研究をしていたが、他人との接触がなくても一向にかまわない、いわばオタク人間の集まりだった。

犀川と萌絵は真賀田博士に会いたいと思った。研究所では博士は一週間前から不在だった。しかし期間が過ぎても交信が出来ないのはおかしい、博士の部屋に入ろうとしたとき、博士の部屋のドアが勝手に開きそこから、運搬用のロボットに乗った、ウエディング姿の死体がゆっくりと現れた。

両手両足が切断された真賀田四季殺人事件の発生だった。

所内のシステムが止まった。一部所内で使っている外部交信用のUNIXシステムは稼動しているはずだった、がそれもダウンしていた。

メールも電話も通じなくなってしまった島の研究所は、翌日来る連絡船が頼みだった。

やっときた船で学生たちは帰り、犀川と萌絵は残り、研究員はシステムのまさかのトラブルを復旧させるために右往左往していた。

真賀田博士の部屋は常に監視され、モニターの映像は全て記録されていた。ここはパソコンで処理されていて、そのシステムは研究所からは独立していた、荷物の搬入はポストから、ドアは中からは開かなくなっていた。

レッドマジックシステムのエラーでドアが開き犀川や萌絵は中に入ってみたが、もちろん博士の姿はなく、部屋は完璧に掃除されて、手がかりになるようなものはなかった。

モニターには「すべてがFになる」という文字が点滅していた。

そこには生活の手伝いをするロボットの、ミチルが残っているだけだった。

事件当時、不在者のもう一人、所長の乗ったヘリが屋上に降りた。所長は真賀田四季の妹の「未来」がアメリカから帰ってくるのを迎えにいったのだった。だが屋上に行った人たちは、背中を指されて死んでいる所長を見つける。

内側からは開かない部屋で殺された博士、ヘリのコックピット席で殺された所長。

犀川と萌絵は考え、所員たちは みんなで作り上げたセキュリティの完璧なレッドマジックバージョン4をUNIXに切り替えることにする。かってのバージョン3は四季が作ったものだった。
リセットが成功してUNIXが稼動し、外部との連絡が取れた。警察がきて捜査を始めた。


副所長の「山根」が消えた。そして、「未来」も消えた。

山根は自分の部屋のバスルームで殺されていた、だが未来は消えてしまった。

犀川はレッドマジックのソースから上書きされたプログラムを見つける。それは同じ時間のファイルがが二つあったということだった。
それをひとつに編集している。時間表示のマジクに気がつく。

そして、レッドマジックの時間プログラミングの中では言語の二進法が16進法を使うことにも気がつく、二進法では表せない10以上の数字はアルファベットを使っていた。
彼は種明かしを始める。

「レッドマジックはトロイの木馬だ」

彼は四季のプログラムから事件の深層に行き着いた。

* * *

ストーリーは専門用語には深入りしないでも、分かりやすくて面白かった。

天才は生きにくい。

しかし真賀田四季は過酷な運命の中で天才と呼ばれる頭脳を使ってシステムを動かした。

犀川の変人具合もなかなか味があるし、萌絵の世間知らずぶりも無邪気でいい。

ストーリーに無駄がない。小説の要素はそれなりにあるし、人物の絡みもうまい具合に配置されている。
久々に推理小説の原点のような本を読んだ。

しかし、、四季の多重人格って?




余談だけれど、本の扉に引用されている文も味わい深い。

対象世界をシミュレートする脳の働きが、信号に対する回路が多いために喩えるものと喩えられるものが生まれ、代替が起こり、シミュレートを試みる。かくして、この余剰が比喩となり、抽象化を生みオブジュクト指向の考え方に綯ったのである。
(青木淳/『オブジェクト指向システム分析設計入門』)

子引き孫引きかも。(^∇^)

この言葉で難解といわれる現代詩がいかに共感しがたいものか、詩感を共有しがたいものかが少し理解できた。

個人的には、気が合うという一般的な言葉がこの比喩の尻尾には繋がっているようだ。そして科学・工学システムにも。

数年前に篠島で泊まってきた。三河湾に点在する島も、フェリーも身近に感じられて楽しかった。



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「夏の稲妻」キース・ピータースン 創元推理文庫

2012-11-14 | 読書


ウェルズ記者シリーズの三作目。

ウェルズの記者魂に触れる。

* * *

使っている情報屋のケンドリックから、上院戦に立候補中の議員のSM写真を買わないかと連絡がきた。しかしウェルズは議員のプライバシーに興味はないというので、拒否をした。

写真はライバル紙の「タイムズ」に使われて、スクープになる。

ケンドリックが殺された。

スクープを取れる写真を買わなかったのは「スター」社のウェルズだったらしいと世間に知れ渡る。

編集長は社会面より、売れるゴシップ記事を読ませる「身近な新聞」を目指していて、ウェルズとは相容れない間柄だった。

彼は仕事に対する信念とそれに絡まって起きた事件の間で、進退窮まり、殺人犯を突き止めるために動き出す。

まず、ウェルズは行方の知れなくなった、写真の女。女優の卵から探し始める。

調べを進めているうちに、スターになるために田舎から出てきて、上流階級の紳士たちの夜のために提供された、と思われる女優志望の女が見つかる。
過去、その女の田舎で、一時の気まぐれに付き合ったことで、それが婚約の儀式だったと思い込んだ牧師見習いの男も見つかる。

それは今回の事件とどう繋がっているのか。絡まった糸が少しずつほどけてくる。

* * *

背景の暑い夏が読むだけで汗ばみそうな季節である。
選挙がらみではあるが、底辺に生きる人間の、希望や悲しみをにじませたストーリーになっている。
ゴシップ記事を売ろうとする上司にあくまで硬派を貫こうとするウェルズの姿勢が考えさせられる。

これはMWA優秀ペイパーバック賞を受けているが、私は二作目の方がいいように感じた。好みだけれど。



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