「―よう相棒、元気かい?」
「は?」
「格好いいね、山とか登りそうだ」
「登んねぇよ」
色黒で長身、しかしマッチ棒みたいな体型をしているジジイだった。
最寄りのスーパーで買い物を済ませると、出入り口で店員とジジイが揉めている。
ジジイのポケットからサラミ、(清算を済ませたはずの買い物袋から)紙パックの日本酒を抜いた店員の姿を見て、あぁ窃盗ねと理解した。
ジジイは暴言を吐くが、抵抗するわけでもない。
認めているのだから問題はなさそうだと店を出ようとしたのだが、店員のアンちゃんがまた、(ちょっと悪意のある表現になってしまうが)ジジイに負けないマッチ棒体型で。
ちょっと心配になり、また、私服保安員だった過去の血が騒いで、とりあえずオマワリくるまで見届けることにした。
そうして近寄っていった自分に、ジジイは開口一番「よう相棒」と声をかけてきたのである。
冒頭がその「返し」だが、なんだ相棒って。
自分がグルだと思われちゃうじゃないか。
気分は、映画『隣人は静かに笑う』(99)のジェフ・ブリッジスである。
マッチ棒ジジイがティム・ロビンスというわけだが、たとえが滅茶苦茶?
分かってるがな、でもこの映画を紹介したかったので、それもよし。
黒い顔が少し赤みがかっているところから、多少酔っていることが分かる。
とはいえグルであるかのように見られるのは心外、ジジイを無視してマッチ棒店員に話しかけた。
「―警察、電話したの?」
「いえ、これからです」
「自分がコイツ見張ってるから、どうぞかけてきて」
「いえ、でも」
「大丈夫、こういうのに慣れてるから」
「どちらかの店員さんですか」
「そういうのとはちがうけど、とにかく慣れっこなの。信用していいから、電話どうぞ」
「・・・はい」
冒頭の会話が聞こえていたのだろう、まだ疑いが解けていないようだが、マッチ棒店員は事務所に電話をかけに向かった。
とりあえずマッチ棒ジジイのベルトを掴み、マッチ棒店員(書いててややこしい)の戻りを待つ。
「元気いいねぇ、なにやっているひと?」
物を盗っておいてこの態度だものね、やっぱり情状酌量というのは本人のためにもならないのだ・・・と確信しつつ、答えるのが面倒なので無視を続ける。
「正義感?」
「・・・」
「同情?」
「・・・」
「えーかっこしー?」
「(苦笑)うるせぇな、あんた前科どれくらいあるんだよ」
「当ててみ」
「自慢する気? その歳でみっともないよ」
「なんで俺の歳が分かる?」
「正確には知らないし、知りたくもない」
「逃げたら、どうする?」
「酔ってんだろ、追いかけっこで負けるわけがない」
「俺もそう思う」
思わず笑ってしまった。
なんなのだろう、コイツは。
マッチ棒店員、帰還。
「ありがとうございました」
「いえいえ、じゃあ、もう大丈夫かな」
「はい」
「行くなよ、つまらなくなるだろ」と、マッチ棒ジジイ。
そのとき、思い出した。コイツ、初めてじゃない・・・と。
いや前科があることは(態度で)分かったが、顔を会わせたのが初めてじゃないってこと。
そう、自分が私服保安をやっていたころ、同じようなスーパーで捕まえたジジイだったのだ。
もう7年も前のことである。
捕まえられたほうは覚えていても、捕まえたほうは「よほど濃い犯罪者」でないかぎり、数年も経てば忘れてしまうものである。
ジジイも濃いほうだったはずだが、、、いや、だからこそ、なんとか思い出せたのかもしれない。
なかなかの偶然というか奇跡、
そこで「・・・俺のこと、覚えてた?」と聞いたところ、ほとんど同時にオマワリが到着してしまう。
「あなたね、じゃあ事務所で話を聞こうか」と、ジジイを連行するオマワリ。
その直前にジジイは笑みを浮かべ、自分に対してなにかを発しようとしていた。
ガッデム!
なんというタイミングの悪さだ。
いつもは待たすくせしてさっ!
ひとり残される自分、なんともモヤモヤが残る展開である。
たとえとして滅茶苦茶だと先に書いたが、隣人? かどうかはともかく「静かに」笑ったからね、この不気味さっていったらない。
あとを追いかけていってもいいが、事務所まで侵入して聞く話でもない、それに好みではないものの若い女子店員が「すごく助かりました、ありがとうございました」と、ひまわりのような笑顔をくれたから、まぁいいか・・・と、店をあとにしたのだった。
※『隣人は静かに笑う』…隣りに越してきた男が、じつはテロリストなんじゃないか―と怯える大学教授(教えるのはテロリズムの歴史)を主人公にした「技あり」のスリラー映画。
…………………………………………
本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
前ブログのコラムを完全保存『macky’s hole』
…………………………………………
明日のコラムは・・・
『hair』
「は?」
「格好いいね、山とか登りそうだ」
「登んねぇよ」
色黒で長身、しかしマッチ棒みたいな体型をしているジジイだった。
最寄りのスーパーで買い物を済ませると、出入り口で店員とジジイが揉めている。
ジジイのポケットからサラミ、(清算を済ませたはずの買い物袋から)紙パックの日本酒を抜いた店員の姿を見て、あぁ窃盗ねと理解した。
ジジイは暴言を吐くが、抵抗するわけでもない。
認めているのだから問題はなさそうだと店を出ようとしたのだが、店員のアンちゃんがまた、(ちょっと悪意のある表現になってしまうが)ジジイに負けないマッチ棒体型で。
ちょっと心配になり、また、私服保安員だった過去の血が騒いで、とりあえずオマワリくるまで見届けることにした。
そうして近寄っていった自分に、ジジイは開口一番「よう相棒」と声をかけてきたのである。
冒頭がその「返し」だが、なんだ相棒って。
自分がグルだと思われちゃうじゃないか。
気分は、映画『隣人は静かに笑う』(99)のジェフ・ブリッジスである。
マッチ棒ジジイがティム・ロビンスというわけだが、たとえが滅茶苦茶?
分かってるがな、でもこの映画を紹介したかったので、それもよし。
黒い顔が少し赤みがかっているところから、多少酔っていることが分かる。
とはいえグルであるかのように見られるのは心外、ジジイを無視してマッチ棒店員に話しかけた。
「―警察、電話したの?」
「いえ、これからです」
「自分がコイツ見張ってるから、どうぞかけてきて」
「いえ、でも」
「大丈夫、こういうのに慣れてるから」
「どちらかの店員さんですか」
「そういうのとはちがうけど、とにかく慣れっこなの。信用していいから、電話どうぞ」
「・・・はい」
冒頭の会話が聞こえていたのだろう、まだ疑いが解けていないようだが、マッチ棒店員は事務所に電話をかけに向かった。
とりあえずマッチ棒ジジイのベルトを掴み、マッチ棒店員(書いててややこしい)の戻りを待つ。
「元気いいねぇ、なにやっているひと?」
物を盗っておいてこの態度だものね、やっぱり情状酌量というのは本人のためにもならないのだ・・・と確信しつつ、答えるのが面倒なので無視を続ける。
「正義感?」
「・・・」
「同情?」
「・・・」
「えーかっこしー?」
「(苦笑)うるせぇな、あんた前科どれくらいあるんだよ」
「当ててみ」
「自慢する気? その歳でみっともないよ」
「なんで俺の歳が分かる?」
「正確には知らないし、知りたくもない」
「逃げたら、どうする?」
「酔ってんだろ、追いかけっこで負けるわけがない」
「俺もそう思う」
思わず笑ってしまった。
なんなのだろう、コイツは。
マッチ棒店員、帰還。
「ありがとうございました」
「いえいえ、じゃあ、もう大丈夫かな」
「はい」
「行くなよ、つまらなくなるだろ」と、マッチ棒ジジイ。
そのとき、思い出した。コイツ、初めてじゃない・・・と。
いや前科があることは(態度で)分かったが、顔を会わせたのが初めてじゃないってこと。
そう、自分が私服保安をやっていたころ、同じようなスーパーで捕まえたジジイだったのだ。
もう7年も前のことである。
捕まえられたほうは覚えていても、捕まえたほうは「よほど濃い犯罪者」でないかぎり、数年も経てば忘れてしまうものである。
ジジイも濃いほうだったはずだが、、、いや、だからこそ、なんとか思い出せたのかもしれない。
なかなかの偶然というか奇跡、
そこで「・・・俺のこと、覚えてた?」と聞いたところ、ほとんど同時にオマワリが到着してしまう。
「あなたね、じゃあ事務所で話を聞こうか」と、ジジイを連行するオマワリ。
その直前にジジイは笑みを浮かべ、自分に対してなにかを発しようとしていた。
ガッデム!
なんというタイミングの悪さだ。
いつもは待たすくせしてさっ!
ひとり残される自分、なんともモヤモヤが残る展開である。
たとえとして滅茶苦茶だと先に書いたが、隣人? かどうかはともかく「静かに」笑ったからね、この不気味さっていったらない。
あとを追いかけていってもいいが、事務所まで侵入して聞く話でもない、それに好みではないものの若い女子店員が「すごく助かりました、ありがとうございました」と、ひまわりのような笑顔をくれたから、まぁいいか・・・と、店をあとにしたのだった。
※『隣人は静かに笑う』…隣りに越してきた男が、じつはテロリストなんじゃないか―と怯える大学教授(教えるのはテロリズムの歴史)を主人公にした「技あり」のスリラー映画。
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『hair』