第16部「デヴィッド・クローネンバーグの物語」~第1章~
「こじんまりとした簡素なオフィスで話をした。彼自身は穏やかで、思慮深く、気を逸らさなかった。彼は死ぬほど真剣だったが、まったく人を殺しそうではない」(デヴィッド・プレスキン、クローネンバーグと対峙したときの印象を語る)
「デヴィッド・クローネンバーグ世界の恐怖は、切り裂き魔のように見える、外からくる恐怖ではなく、はるかにおぞましい、内に潜んだ自己の、自己意識の恐怖なのである。我思う、ゆえに我はないかもしれない」(デヴィッド・プレスキン)
…………………………………………
映画が日本に上陸することは「あまりない」が、侮ってはいけない「鬼才の住む国」を順不同で挙げてみる。
オランダ。
なんといっても、ポール・バーホーベンが居る。
米国資本で映画を撮ろうが、米国に「あっかんべー」が出来る貴重な監督だ。
デンマーク。
ビレ・アウグスト、そしてラース・フォン・トリアー、スサンネ・ビアを生んだ国。
映像表現の可能性を信じ、娯楽とは無縁の映画を創るチャレンジャー多し。
スペイン。
クラシックの世界にはルイス・ブニュエル、ビクトル・エリセが、
現代映画ではアレハンドロ・アメナーバル、そして全世界で人気者の「陽気で悲惨な」ペドロ・アルモドバルが居る。
ニュージーランド。
オーストラリアではなく、ニュージーランド。
筆頭はジェーン・カンピオンだが、(米国で活躍する)アンドリュー・ニコルもピーター・ジャクソンも、この国の出身。
ところで、マオリの血を引くリー・タマホリはどうしているのだろうか。
フィンランド。
映像詩人、アキ・カウリスマキがひとりで気を吐く。
そうして最後に、カナダ。
作風はまったく異なるが、作品の寒々しい感じ? がとてもよく似ているふたりの映画作家、アトム・エゴヤンと、デヴィッド・クローネンバーグが生まれた国である。
…………………………………………
地理的には米国映画と似てもおかしくはないはずだが、
気候というものは馬鹿に出来ないものなのだろうか、カナダの映画は誤解を恐れずにいえば「ひんやり」しているところがある。
ジャンルとしてのホラー映画が多いとかではなく、その肌触りが。
そんな印象を抱かせているのは、じつはクローネンバーグひとりによるもの、、、という噂もあるのだが。
逆にいえば、クローネンバーグがそれだけ大きな存在だということ。
長身の、理数系を専門とする学者のような見た目。
ときどき俳優をやることもあり、『誘う女』(95)でニコール・キッドマンを殺害する「謎の男」を怪演、創る映画も気味が悪いが、本人もなかなかだね・・・なんて思った映画小僧も多かったのではないか。筆者もそのひとりである。
最もポピュラーな作品は、おそらく『ザ・フライ』(86)だろう。
特殊効果を用い、ハエと人間の融合を「哀しいホラー」として描いた。
映画小僧に人気が高いのは、
超能力者の戦いを頭部の爆発という刺激的な映像で表現した『スキャナーズ』(81)、
腹部が裂けたりするスプラッター描写を多用しつつも、なんとなく知性さえ感じさせる『ヴィデオドローム』(82)あたりだろうか。
批評家受けがいいのは、スティーブン・キングの原作を丁寧に映像化した『デッドゾーン』(83)、そして、凄まじい暴力描写が話題になった『イースタン・プロミス』(2007)だと思う。
…………………………………………
筆者がクローネンバーグの3傑を選出するとするならば、
『デッドゾーン』、『クラッシュ』(96)、『戦慄の絆』(88…トップ画像、文末予告編参照)の順になる。
最初の出会いは『ザ・フライ』だったが、この映画で監督に注目することはなかった。
次の出会いが『戦慄の絆』で、これが衝撃だった。
悪夢というだけでは当時のショックを表現し切れない、もう、イヤ~な汗をかきまくりなのである。
あらすじを説明しようにも、気の触れた双子の医師による、気の触れた物語・・・としか記せない、というか、記しようがない。
なんでこんな映画を創っちゃうのかな、頭がおかしいのかな―と思ったものだが、それから過去の映画を当たり、あぁやっぱりこのひとは真性のキチガイなんだなと理解した。
もちろんこれは、表現の世界では褒めことばである。
43年3月15日生まれ、現在70歳―未だキチガイであり続ける鬼才の頭のなかを、ちょっとだけ覗いてみることにしよう。
…………………………………………
※『戦慄の絆』予告編
つづく。
次回は、6月上旬を予定。
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本シリーズでは、スコセッシのほか、デヴィッド・リンチ、スタンリー・キューブリック、ブライアン・デ・パルマ、塚本晋也など「怒りを原動力にして」映画表現を展開する格闘系映画監督の評伝をお送りします。
月1度の更新ですが、末永くお付き合いください。
参考文献は、監督の交代時にまとめて掲載します。
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本館『「はったり」で、いこうぜ!!』
前ブログのコラムを完全保存『macky’s hole』
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明日のコラムは・・・
『「元」借金大王』
「こじんまりとした簡素なオフィスで話をした。彼自身は穏やかで、思慮深く、気を逸らさなかった。彼は死ぬほど真剣だったが、まったく人を殺しそうではない」(デヴィッド・プレスキン、クローネンバーグと対峙したときの印象を語る)
「デヴィッド・クローネンバーグ世界の恐怖は、切り裂き魔のように見える、外からくる恐怖ではなく、はるかにおぞましい、内に潜んだ自己の、自己意識の恐怖なのである。我思う、ゆえに我はないかもしれない」(デヴィッド・プレスキン)
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映画が日本に上陸することは「あまりない」が、侮ってはいけない「鬼才の住む国」を順不同で挙げてみる。
オランダ。
なんといっても、ポール・バーホーベンが居る。
米国資本で映画を撮ろうが、米国に「あっかんべー」が出来る貴重な監督だ。
デンマーク。
ビレ・アウグスト、そしてラース・フォン・トリアー、スサンネ・ビアを生んだ国。
映像表現の可能性を信じ、娯楽とは無縁の映画を創るチャレンジャー多し。
スペイン。
クラシックの世界にはルイス・ブニュエル、ビクトル・エリセが、
現代映画ではアレハンドロ・アメナーバル、そして全世界で人気者の「陽気で悲惨な」ペドロ・アルモドバルが居る。
ニュージーランド。
オーストラリアではなく、ニュージーランド。
筆頭はジェーン・カンピオンだが、(米国で活躍する)アンドリュー・ニコルもピーター・ジャクソンも、この国の出身。
ところで、マオリの血を引くリー・タマホリはどうしているのだろうか。
フィンランド。
映像詩人、アキ・カウリスマキがひとりで気を吐く。
そうして最後に、カナダ。
作風はまったく異なるが、作品の寒々しい感じ? がとてもよく似ているふたりの映画作家、アトム・エゴヤンと、デヴィッド・クローネンバーグが生まれた国である。
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地理的には米国映画と似てもおかしくはないはずだが、
気候というものは馬鹿に出来ないものなのだろうか、カナダの映画は誤解を恐れずにいえば「ひんやり」しているところがある。
ジャンルとしてのホラー映画が多いとかではなく、その肌触りが。
そんな印象を抱かせているのは、じつはクローネンバーグひとりによるもの、、、という噂もあるのだが。
逆にいえば、クローネンバーグがそれだけ大きな存在だということ。
長身の、理数系を専門とする学者のような見た目。
ときどき俳優をやることもあり、『誘う女』(95)でニコール・キッドマンを殺害する「謎の男」を怪演、創る映画も気味が悪いが、本人もなかなかだね・・・なんて思った映画小僧も多かったのではないか。筆者もそのひとりである。
最もポピュラーな作品は、おそらく『ザ・フライ』(86)だろう。
特殊効果を用い、ハエと人間の融合を「哀しいホラー」として描いた。
映画小僧に人気が高いのは、
超能力者の戦いを頭部の爆発という刺激的な映像で表現した『スキャナーズ』(81)、
腹部が裂けたりするスプラッター描写を多用しつつも、なんとなく知性さえ感じさせる『ヴィデオドローム』(82)あたりだろうか。
批評家受けがいいのは、スティーブン・キングの原作を丁寧に映像化した『デッドゾーン』(83)、そして、凄まじい暴力描写が話題になった『イースタン・プロミス』(2007)だと思う。
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筆者がクローネンバーグの3傑を選出するとするならば、
『デッドゾーン』、『クラッシュ』(96)、『戦慄の絆』(88…トップ画像、文末予告編参照)の順になる。
最初の出会いは『ザ・フライ』だったが、この映画で監督に注目することはなかった。
次の出会いが『戦慄の絆』で、これが衝撃だった。
悪夢というだけでは当時のショックを表現し切れない、もう、イヤ~な汗をかきまくりなのである。
あらすじを説明しようにも、気の触れた双子の医師による、気の触れた物語・・・としか記せない、というか、記しようがない。
なんでこんな映画を創っちゃうのかな、頭がおかしいのかな―と思ったものだが、それから過去の映画を当たり、あぁやっぱりこのひとは真性のキチガイなんだなと理解した。
もちろんこれは、表現の世界では褒めことばである。
43年3月15日生まれ、現在70歳―未だキチガイであり続ける鬼才の頭のなかを、ちょっとだけ覗いてみることにしよう。
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※『戦慄の絆』予告編
つづく。
次回は、6月上旬を予定。
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本シリーズでは、スコセッシのほか、デヴィッド・リンチ、スタンリー・キューブリック、ブライアン・デ・パルマ、塚本晋也など「怒りを原動力にして」映画表現を展開する格闘系映画監督の評伝をお送りします。
月1度の更新ですが、末永くお付き合いください。
参考文献は、監督の交代時にまとめて掲載します。
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『「元」借金大王』