「え~っいいんですか?乗せてください、ホントに」
「一応ツインターボになってるけど軽は軽だぞ、
婆さんがケアに行ってる日なら大丈夫だ」
「お婆さんがいらっしゃるんですか?」
「あぁいらっしゃるんだ、いらっしゃってもこれが結構大変でな…」
男は口をぎゅっと結び大きなため息をついた。車の話で盛り上がり
楽しそうだった表情は消え、さてっと話を区切った。
「さぁ泳ぐぞ、君は若いんだからどんどんいけ!」
その後ユキオを見つける度に、ほら、どんどん泳げ、とハッパをかける
男を「鬼コーチ」と呼ぶことにした。
鬼コーチには何度かコペンに乗せてもらったが、おもちゃのような車体に
ぎゅうぎゅうに詰め込まれたエンジンが精一杯頑張る音と、スポーツカーらしく
狭くて地面ぎりぎりまで低いシートに感激したのだった。
ドライブの途中での語らいはこと車に関しては楽しいものだったが、
鬼コーチが「婆さん」と呼ぶお母さんとの生活に関してはかなり悲しいもので、
愚痴を聞く度に暗い気持ちにならざるを得なかった。
そしてそれを意外な形で目の当たりにすることになる。
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