その日の天気予報では夕方から雨の確率が80%、
まだ降り出してはいなかったが、ユキオは傘を持ってプールに出かけた。
泳ぎ終わり、常連さん達に挨拶をしロビーに出る。
予報通り冷たい雨が降り始めていた。
傘がない、あれ?
違う傘立てに置いたのを勘違いしているのかと思い
別の場所を探したが、やはり見つからない。
ってことは、やられたか…
透明のビニール傘だが、自分の物と分かるように柄にはっきりと
マークを描いておいたのに、それでも盗まれたのだ。
多分来館するときには降っていなかったので、傘を持たずに来た客が
雨を見て出来心を起こしたのだろう、無性に腹が立つ。
他人の気持ちが考えられない情けない奴だ。
日本人は外国から賞賛されるほど道徳心に富んだ国民なのに、
傘と自転車の泥棒は相変わらず多い。
犯人に後悔させるにはどうしたらいいのだろう…
こみ上げる怒りと、たかが傘だろ、とあきらめの気持ちで
混乱するユキオだが、とりあえず今どうやって家まで帰るんだ?
どうせプールで濡れたんだから、家まで濡れて帰っても
大したことはない、タオルかぶって帰ろうと決めた時、名前を呼ばれた。
「ユキオさん、まだいたの~」
「あぁっゆきさんか、まったっくさぁやられたよ」
「なに、どうかしたの?」
「傘、盗まれた」
「え、そうなの?ひど~い」
「ホント嫌になる、犯人見つけて死刑にした方がいいな」
「どうする?」
「しょうがないから、タオル被って走ってこうかと思ってさ」
「なら、送ってくよ、車だし」
「え、いいの?悪いなぁ、助かるよ」
「じゃぁ入り口で待ってて、取ってくるから」
「済みません、お願いします」
画像=Twice 「TT」