暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

茶事 「Spiral in Summer」 ー2

2014年09月06日 | 思い出の茶事  京都編
             凌霄花 (のうぜんかずら)  金戒光明寺にて                           
(つづき)
ご亭主Yさまの茶室はマンションの一室です。
どんな設えや工夫がされているか、お伺いするのが楽しみでした。

玄関脇の小部屋が待合、そこから中廊下を通り、襖を開け茶室へ。
六畳和室を四畳半に改造し、壁床、網代天井、炉も切ってあるとか。

動線がとても良く、採光や通風も工夫されていました。
茶道口に一畳分の板の間があり、リビングを屏風で上手く仕切っていました。
二方(客入り口と茶道口)から入室できるのが、選んだ決め手
・・・というのも頷けます。

初座のお軸は
「清空 不妨 白雲飛」 (清空 白雲飛ぶを 妨げず)

「清空」とは悟りの境地でしょうか。
宇宙や空がお好きだというYさまが
白雲となって青く澄んだ空を自由に飛んでいる気がしました。

もう一度、お軸と風炉の炭を拝見して、中立しました。

              
                   田村草    季節の花300

後座の茶室へ入ると、楚々とした秋草が露に濡れて、濃茶へと誘います。
運ばれてきた魅力的な茶碗と茶入、美しく確かなお点前、
ふくいくとした茶の薫りに包まれるとすぐに、
「Spiral in Summer」の世界へ引き込まれました。

ほど好い濃さに練れた濃茶をたっぷり頂戴し、
何とも言えない充実感に満たされました。
濃茶は豊昔、池田市にある三丘園詰です。

茶碗は和田桐山作、八ヶ岳窯で制作されたものでした。
野趣豊かな風土を感じる茶碗は一目でお気に入りです。

手に取るとすっぽり入ってしまう、小振りの茶入は瀬戸。
形、姿、釉薬の色、なだれがなんともかわいらしく、
相客がこの茶入との再会を楽しみにしている様子でした。
銘「つばさ」の茶杓と紹鴎緞子の仕覆はご自作です。

最後にもう一つ、「Supiral in Summer」の極め付けを。
それは薄器でした。
黒大棗に不思議な蒔絵が描かれています。

「つぼつぼ」が竜の様に長く繋がって、
雲や波が描かれた空間を漂っているように見えました。
一瞬、銀河鉄道を駆け上がっていく長い列車を連想し、
広大な宇宙へ乗りだそうとしているYさまを思いました。

お尋ねすると、岩淵祐二作の大棗で銘「つぼつぼの道」、
注文主はYさまですが、岩淵氏と茶友Hさまが相談してデザインされたとか。

              
                        田宝(でんぽ)
「つぼつぼ」とは、
三千家家元の替紋のことで、
伏見稲荷を信仰していた玄伯宗旦が初午の土産物の田宝(でんぽ)を
紋にしたと言われています。
裏千家では茶名を拝受すると、つぼつぼ紋を使うことが許されます(紋許)。

茶道を志す者が歩む「つぼつぼの道」へ分け入ったという、
Yさまの覚悟のように思われ、先ほどのお軸「清空 不妨 白雲飛」が
もう一度、頭をよぎっていきました。

「つぼつぼの道」いいですね!
きっと茶友Hさまも岩渕氏も応援していることでしょう。
私たち客一同も心からエールをおくります。

新鮮な刺激をたくさん頂戴した茶事「Spiral in Summer」に深謝します。

                                
            茶事 「Spiral in Summer」-1へ戻る



茶事 「Spiral in Summer」-1

2014年09月05日 | 思い出の茶事  京都編
                (満開の木槿  季節の花300)

葉月も終わる31日にYさまの正午の茶事へ招かれました。

相客のKさまやSさまから伺っていた通り、
ご亭主のほんわかとした雰囲気に心温まる、素敵なお茶事だったのですが、
なにか、新鮮な衝撃(サプライズ?)が残り、今なお心を騒がしています・・・。

いったい、何故なのでしょう?
もう一度、心を真っ新にして思い出してみました。

                    
                 (オミナエシ  季節の花300)

それは腹鼓を打った懐石後の炭手前から始まりました。

籠の平炭斗は見立て。
オーロラを見にアラスカへ行ったときに出合った、
白樺で編んだイヌイットのバッグでした。

炭斗に続いて、背の高い香合と灰器が同時に持ち出されました。
手に余るほどの香合は、前田酒店お別れ茶会の鶉香合以来なので
嬉しくってワクワクしました。

あとで拝見すると、12センチほどの銅鐸(どうたく)でした。
銅鐸は弥生時代に製造された釣鐘型の青銅器です。

ご亭主に勧められて、振ってみると、高音の鐘の音がします。
「当てずっぽうでごめんなさい・・・韓国の銅鐸でしょうか?
 喚鐘のような高音だったので・・・」
すると、
「滋賀県野洲市の「銅鐸博物館」で購入したもので、
 日本で出土した一番小さな銅鐸の写しです。
 鐘のように楽器に使われていたと云われています。
 下の香受けは陶器で、茶友が手びねりで作ってくれました」

銅鐸を香合に使うなんて! アイディアが愉しく、ステキです。

             
           袈裟襷文銅鐸 浜松市出土(東京国立博物館蔵)

初炭が終わって、主菓子が銘々皿で運ばれました。
透明の葛が乗せられた菓子を一口頂いて、
「こっ、これは?」 
小豆の味わいが幽かにあるものの、独特の甘味や食感に全く覚えがありません。

濃茶になってお尋ねすると、
「デーツを基に、茹で小豆を混ぜて漉し、成型した自製の菓子です。
 Kさまが砂糖を断っていると伺っていましたので、
 全て天然の甘味を使ってみましたが、如何でしたか?」

「デーツを知らなかったので、初めて食べる甘味でした。
 干し柿でもレーズンでもなく、濃厚で、不思議な美味しさです・・」と私。

デーツはナツメヤシの果実(ドライフルーツ)です。
北アフリカや中東で栽培され、シロップ、ジャム、菓子に加工され、
日本でも輸入され、大型スーパーで見かけるようになったとか。

             
                      「デーツ」
 
菓子銘をお尋ねすると
Spiral Summer Version」(スパイラル サマー バージョン)
「えっ! スパイ・・??」 

「Spiral(スパイラル)」とは、
コンピューターのシステムを構築するときの手法の1つで、
螺旋(スパイラル)のように少しずつ上を目指して進んで行く・・・
そんな意味が込められていて、ご亭主お気に入りの言葉(手法)でした。

きっとこの次の菓子「Spiral」は、さらにバージョンアップしていることでしょう。

                                      

           茶事 「Spiral in Summer」-2へつづく


うさぎ小屋の茶遊び-2

2014年06月27日 | 思い出の茶事  京都編
                真如堂の菩提樹の花 (写真がないので・・)
(つづき)
次いで昼食となり、四つ椀の懐石が出されました。
手をかけてくださった料理が次々と登場し、舌鼓です。
何と言っても一番は味噌汁。
揚げとミョウガ入りの味噌汁が絶品で、味噌をお持ち帰りしたい・・。

「本当に手前味噌なんですが、これだけは自慢できます。
 手造りの赤味噌を使っています」 (凄いです! 

2色(ヨモギと海老?)の真蒸に豆腐の湯葉巻きを乗せた向付は
サプライズもあり、私も作ってみたい・・・と刺激を頂きました。
材料やレシピの話も飛び交い、楽しい食事タイムが終わり、中立です。

              

後座へ席入すると、床の中釘に
花が3種(七段花、咲き終えた鉄線の花芯、もう1種白い花?)が
古びた鉈籠に活けられていました。

丸っこい形の赤味を帯びた風炉が何とも温かく、存在感を放っています。
あとで伺うと、数十年前にご亭主が陶芸家・池川みどりさんと出逢った頃に
初めて購入した風炉とのことでした。
それ以来、池川作品を愛し、使い続け、応援しているそうです。

風炉先屏風は、織物作家であるご亭主Sさんの作品です。
市松模様のブルーグレイの織物が板の間の点前座をやさしく囲っています。
風炉の隣りに渋い鉄色の水指(不識形)と茶入が置かれていました。
上品な模様の仕覆が目を惹き、「どんな茶入が入っているのかしら?」

濃茶点前が始まり、仕覆が脱がされ、茶入が清められます。
Sさんの緊張感あるお点前を、客一同、背筋を伸ばして見守りました。
美しい青灰色、背が高く角ばった肩衝が現われ、
一目で池川作品とわかりました。
古い着物裂を探して仕立てたという仕覆がお似合いです。

そんな茶入に入った濃茶を丁寧に練ってくださり、美味しく頂戴しました。
濃茶は姫路・小林松濤園、お菓子は「さくら羊羹」です。

               

薄茶になり、ご亭主も笑顔で席へ加わり、茶遊びはさらに佳境へ。
竹の盆に小服茶碗をたくさん載せて
「好きでいろいろ集めています。
 もちろん揖保川焼もありますが、他の焼物もあります。
 薄茶をお点てしますので、お好きな茶碗を選んでください」
 (・・・こんな趣向も楽しいですね)

薄茶を頂戴しながら、池川みどりさんとの出会いや、画家・熊谷守一、
好きな雑貨たちの話など、愉しゅうございました。
薄器や香合は見立てだそうですが、この茶空間に溶け込んで自然でした。

力一杯もてなしてくださったSさん、ステキな茶遊びをありがとう!
いつかKさんから
「茶室がなくても畳がなくても、心を感じる茶会をする方がいます」
と伺っていた通りでした・・・。

池川さんの個展でまたお会いしたいです。

                           やっと     

              うさぎ小屋の茶遊びー1へ戻る




うさぎ小屋の茶遊び-1

2014年06月25日 | 思い出の茶事  京都編
              「沙羅ひらく」  17日真如堂にて撮影

山賊茶会のメンバー、Sさんから茶遊びへ招かれました。

山賊茶会は、池川みどりさんを中心に、Kさん、Nさん、Sさんたちが
個性あふれる、魅力的な茶会をしていらっしゃいます。
この度は思いがけなく末席に加えて頂きました。

送られて来たご案内のカードがステキでした!  

  うさぎ小屋の茶遊び       
        おまねき

    初夏の一日茶遊びにお招きしたく
     ご案内させていただきます。          

     2014年6月16日(月)      
       正午より  S宅・・・・(後略)


  台所でいたします。どうぞお気軽に普段着でお越しください。
  私も洋服で失礼させていただきます。


「ふぅ~」・・・ため息がでました!
なんてさりげなく、心温まる案内状なのだろう。
もうもう(牛ではありませんが・・)喜んで伺いますと返信しました。
それ以来、うさぎ小屋の茶遊びの日が楽しみでした。

               

当日近くの駅で、山賊茶会のメンバー(池川さん、Kさん、Nさん)と
待ち合わせ、車でSさん宅へ。
「正客は初めての方がすることになっています」とKさん。
正客(というか、一番目に入る客の意)を仰せつかり、
・・・ドキドキしながら自称・うさぎ小屋のドアを開けました。

玄関を入った廊下に腰掛が4つ用意され、荷物入れの籠が置いてあります。
そして壁に俳句を画いた色紙が掛けられていました。

    欲しいもの
      ことさらになく
        沙羅ひらく
             翠


すぐに池川さんの句とわかり、今日の茶遊びにぴったりです。
「欲しいもの ことさらになく」
・・・に同調あり、反論ありで楽しく話していると、
冷たい麦茶とおしぼりが出され、嬉しい気遣いでした。
これからの季節にインパクトあるご馳走かもしれません。

            

廊下の先のドアを開けると、そこが今日の茶室でした。
約10畳の板の間に、鉈目のある木のテーブルが置いてあります。

一方の壁を床に見立て、軸が掛けられ、香合が荘られていました。
反対側の壁側に点前座があり、丸っこい風炉に釜が掛けられています。
床と点前座を拝見し、木のテーブルを囲んで4人が座りました。
向こうに台所があるようですが、スクリーンで上手に隠されていました。

我が灑雪庵の四畳半と同じで、食堂であり、家族がくつろぐ居間であり、
客間でもあり、しかもフローリングです。
畳が無くても見事なお茶空間の創出にワクワクしてきました。
ご亭主が出てこられて、改めて挨拶を交わしました。

「一日  一生」
と書かれたお軸のことを伺いました。
「今の私は、一日が一生という思いを胸に暮らしていますので
 このお軸を掛けたいと思いました」
短く、言い得ている語句に一同深く頷いた次第です・・・。
                                  

           うさぎ小屋の茶遊び-2 へつづく



どくだみ茶会-2

2014年06月18日 | 思い出の茶事  京都編
                どくだみの花 (季節の花300)
(つづき)
ご挨拶のあと、夕食をご馳走になりました。
Kさんの茶会は「家のご飯と薄茶」が基本です。
でもね! その中にKさんならではエッセンスが凝縮されていて、
センスと個性が輝いている・・・と思うのです。

シンプルな献立ですが、こだわりが半端ではありません。
自家製野菜、野菜の栄養と旨味を引き出す切り方や調理、
直前に焼いて供される出し巻き玉子など、
より美味しく、見た目も好く、探求する姿勢に感動すら覚えます。
そんなエッセンスの話を伺いながら、Kさんちの夕食を平らげました。

ここで中立し、先ほどの外腰掛へ。
再びご亭主の迎え付けがあり、席入りすると、
ほの暗い茶室には燭台が置かれ、蝋燭が灯されていました。

             
              (写真がないので我が家のどくだみですが・・)

床にどくだみの花が生けられていました。
そこだけ白い花が浮き立って、十字架のようにも見え、
敬虔な修道女のようにも見えてきます。
花入は揖保川焼、池川みどり作。
古色ある敷板は、扁額を応用したお手製で、垂涎ものです。
友人が描いたという抽象画が掛けられていて、雨雲をイメージした絵だとか。

席入の時から音楽が雨の音のようにも聞こえ、
時に軽快であったり、時に物寂しかったり・・・聴衆のこころのままに。
炉には手取り釜がシュンシュンと湯気をあげていました。

「一年中、炉の流し点で薄茶をさしあげています」
・・・Kさんの諸事情でこのようなスタイルに完結したそうですが、
ゆるぎない信念がそれを後押ししていて、大拍手です。

一服目は濃茶のように緊張して、
二服目は薄茶独特のくつろいだ雰囲気で頂戴しました。

               

・・・そして、お茶を味わいながら、
「こんな素敵な茶会へもう二度と来ることはないだろう・・・」
と思い、なぜ何度も来たくなったのか、自問しました。

Kさんの茶会を、ひそかに「清貧の茶会」と呼び、敬愛しています。
余計なものを全て削ぎ落とし、必要かつfavoriteなものへ見事なまでに
昇華なさって、そこにお茶本来が持つ精神の高みを感じるのです。

もう一つは工夫の面白さです。
今回はどくだみの花が主役でしたが、毎回胸ときめく工夫やら
Kさんならではの茶会次第があり、無限の広がりを楽しめます。

決して高価なものを使わず、無理せず「清貧」の茶に徹している、
そんな茶会が大好きで、心地好い刺激とともに
「私も私の茶事をしよう!」といつも勇気づけられるのです。

今回も親友のKさんと一緒に風雅を味わい、善い気を一杯あびて、
「どくだみ茶会」を堪能しました。

後日、やさしい親友から電話があり、
「あれから、どくだみがKさんに見えてしまい、抜けなくなりました・・・」

                         
                        & 

              


               どくだみ茶会-1へ戻る