カナダとの関税賦課の争いが激化した:
カナダとアメリカの不和:
私はカナダがアメリカに対して必ずしも好感を持っていないことは承知していた。だが、これほどまでに揉め事が具体化するとは考えたこともなかった。実は、トランプ大統領の止まるところが見えてこないtariff攻勢については、何のかんのと論じることを控えようと考えていた。だが、昨日からのカナダ、就中オンタリオ州政府とのやり取りが過熱して激化したのを見て気が変った。
それは、トランプ大統領はカナダ・オンタリオ州がアメリカの供給する電力を25%値上げしたことに対抗(報復?)して、カナダからの鉄鋼とアルミニウムへの関税を50%に引き上げるという対抗措置を見て、他所の国の問題とは思えない不安を感じたからだ。トランプ大統領はさらにカナダの自動車産業を休止に追い込むとまで言われた。私の懸念は「この様子では両国の経済が大混乱するのでは」である。
関税(customs duty, import duty, tariff)とは:
そこで、念のために去る2月11日に取り上げた、トランプ大統領が商務省とITC(国際貿易委員会)の調査と審議を経ずして(政策的且つ恣意的に)他国からの輸入に関税を賦課できるのは何故かを取り上げて、IEEPA(International Emergency Economic Power Act)=国際緊急経済権限法の規定に基づいていると説明した。
私が在職中に関税について経験から学んだことは「税関は法律に則って非常に厳密且つ厳正に調査してからかける税金」だった。また、その主たる目的の一つに「国内産業の保護」があると認識していた。大統領の権限で運用できるとは知らなかった。
一方のアメリカでは関税には当然国内産業の保護があるのだが、我が国とは異なっていて「国内の産業界から外国からのダンピングによって市場が荒らされたとの理由で、商務省(DOC)に当該国からの輸入に関税を賦課願いたいとの請願から始まる」と承知していた。請願を受けた商務省が時間をかけて調査し、不当な廉売であると認めたならば、国際貿易委員会(ITC)に上げて審査され認められれば、関税率等が決定されていくのだ。
ここまでの過程(手順)に大統領は関与していない。それでも、トランプ大統領は「tariffほど美しい言葉はない」と言われ、tariff manと自称され、就任後に見せたように追加関税の賦課を決定する大統領令に署名されたのだ。これは、上述の手続きを飛び越えてIEEPA(国際緊急経済権限法)の規定に基づいているのだと解釈した。
因みに、IEEPAが適用されるのは「安全保障・外交政策・経済に対する異例かつ重大な脅威」であり、非常事態後、金融制裁にて、その脅威に対処する。具体的には「攻撃を企む外国の組織もしくは外国人の資産没収(米国の司法権の対象となる資産)、外国為取引・通貨及び有価証券の輸出入の規制・禁止」などである。
要するに、トランプ大統領はIEEPAによって、DOCやITCの調査・承認を経ずとも、大統領が賦課する権限を行使されたのであると見ている。実は、不勉強にしてIEEPAの規定があるとは知らなかった当方は、アメリカの大統領の権限の大きさとその行使を、今になって「驚き」を以て受け止めていた。更に、関税の賦課がdealの材料になるなどとは、想像したこともなかった。
結び:
私は「物事には何時か終わりが来るもの」だと信じている。だから、何もカナダ対アメリカだけの事案だけではなく、トランプ大統領のtariff作戦が何時かは終結して、世界の経済のturmoil(騒動、混乱)は何らかの形になって終わるものだと期待したいのだ。トランプ大統領がどのような形にもっていって終わるかは予想を許さない。ただ黙ってジッと見守っているしかないと思っている。