北川扶生子氏の書いた『漱石文体見本帳』を読みました。とてもすばらしい本でした。
私は今、近代文学の成立に興味を持っています。とくに「語り手」がどのように成立していったのかを考えようとしています。とは言え実際には忙しさでなかなか考える余裕がなく、ほとんど進んでいません。
近代文学の成立に一番大きな貢献をしたのは、やはり何といっても夏目漱石です。夏目漱石は初期はさまざまな文体を駆使していました。漢文訓読調、戯作調、美文調など文体の見本市のようでした。しかしそれがいつの間にか落ち着いていき、いわゆる近代文学文体を発明します。漱石以降は、この漱石文体が主流になります。それは現在にまで続いていると言ってもいい。それほど漱石の文体は影響力があったことになります、
その漱石文体は「近代」という時代と無縁ではありません。教養人の書く文体でもなく、庶民の話す語りの文体でもなく、誰もが受け入れられるような文体が要求されたのです。漱石はその文体を手に入れます。しかし、それは「自分を殺す」ことだったのです。
この本に大きな刺激をもらいました。何度も読み返していきたい本です。
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