オオタニ

誰が何を好きでも構わないのだが、あまり自分の興味を押し付けられても困る。

取引先の若い担当者に、「オオタニですけど、活躍しますかね」と突然聞かれた。

オオタニ？　誰ですか？　私の知っている人ですか？　と聞いたら、「いや、だから・・・・オオタニですって」と、何を馬鹿なことを言っているんだ、というような軽蔑の目で睨まれた。

そんな目で見られたって、知らないものは、知らない。

オオタニって人を知らなくたって、俺は、今まで普通に生きてこられたぞ。
電車も乗れたし、スーパーで買い物も出来た。
交番の前を通っても、警官に呼び止められもしなかった。
銀行でも不審者扱いは、されなかった。
役所で住民票も普通に取れた。
近所の犬にも吠えられなかった。
野良猫などは、むしろゴロニャンとすり寄ってくるくらいだ。

つまり、なんの不都合もない。

俺が、オオタニなどというのを知ったとして、いったい何の得があるのだ。

だから、もう一度、繰り返した。

オオタニ？　だれ？

すると相手は、馬鹿にされたと思ったのか、「もう、いいです！」と拗ねた。

拗ねることはないと思ったが、申し訳ないと思ったので、その場でｉＰｈｏｎｅを使って、ググった。

オオタニ、とググると、「レストランオオタニ」「不動産のオオタニ」「オオタニワタリ」「スーパーオータニ」が、出てきた。

このどれかのことを言っているのだろうか、と思ったが「活躍」と担当者が言っていたのを思い出して、「レストランオオタニ」「不動産のオオタニ」が活躍するという表現はおかしいだろう、と思って、違うググり方をした。

漢字の「大谷」でググったら、「大谷翔平」というWikipediaの情報が出てきた。
Wikipediaは、いいかげんな素人情報が載せられることがあるので、あまり信用ならないのだが、おそらく「オオタニ」とは、このことを言っているのだろうと思った。

しかし、私は高校野球、プロ野球にはまったく興味がないので、下手なことを言うと誤解されて、地雷を踏むことになると思った。
だから、知らないフリをし続けることにした。

別に、この程度のことを知らなくても、私の生活に何の支障もないし、今回、相手の機嫌を少し損ねたようではあるが、仕事はいただくことができた。

だから、これから先、このことを知らずに過ごしたとしても、私には何の影響もない。


ただ、今回、事情を少し知ったのだから、「オオタニさん」には、活躍してほしいと思う。

プロ野球の世界で、どの程度を「活躍」というのかわからないが、私は、「オオタニさん」の「活躍」を心から祈っています。