大学時代の友人オオクボは、いまベジタリアン(菜食主義者)である。
彼は、肉、魚、卵を食わない。
2年前に、高血圧症と通風、と医師から宣告を受け、それまでの肉中心の食事から、半年で菜食生活にシフトした。
(魚には体にいいものもあるし、鶏肉は低カロリーだと聞くが、オオクボは徹底していた)
それまでの極端な肉食生活から、よく徹底した菜食に切り替えられたと思う。
昔は、「俺の主食は焼き肉だ」と言っていた男が。
要するに、意志が強いということだろう。
食事療法のおかげで、「肉体年齢は実年齢より15歳若いですね」と医師に言われたことが、かなり嬉しかったと語っていた。
そのオオクボと同じく、大学時代の友人ヤマザキ、イイヅカの4人で2年ぶりに食事をした。
数年前から流行りの安い居酒屋チェーン店だ(場所は新宿)。
一つ一つの単価が安いので、心置きなく食えるし、値段がわかりやすいのがいい。
その居酒屋でオオクボが食うのは、もちろん野菜オンリーだ。
「タケノコの土佐煮」「菜の花の御浸し」「ジャガイモピザ」「厚揚げのステーキ」など。
それを見た肉食バーバリアン(野蛮人)のヤマザキ、イイヅカが舌打ちをした。
「何だよ、その料理。全然、力がつかねえじゃねえか。毎日が病人食かよ! 軟弱な人生だなあ。おまえ、終わったな!」
そして、私が食ったのは、「揚げ物野菜3種盛り合わせ」と「季節野菜の天ぷら」だけ。
それを見たイイヅカが、「だから太れないんだよ!」と余計なことを言った。
(バカなやつは、野菜食は太れないと思っているが、二つとも揚げ物なので、カロリーは高い。つまり、こいつらは無知なのだ)
私は、180センチ、57キロ。
ランニングを趣味としているので、至って健康だ。
不整脈が持病だが、死ぬほどではない。
そして、肉は好物ではないが、私は家族の晩メシを作るのを趣味としているので、バランスのいい料理を心がけている。
だから、肉、魚、野菜、キノコ類などをバランスよく取っている。
無知な肉食バーバリアンとは、根本的な生き方が違う。
他の3人の肉体データを比べると、オオクボは174センチ、66キロ。
2年前までは80キロ以上あったので、15キロ近くカラダを絞ったことになる。
ヤマザキは178センチ、85キロ。
イイヅカは、172センチ、75キロ。
二人ともメタボに分類していいか、という体型である。
二人は、何度か痩せようと努力したことがあったらしい。
しかし、いずれも失敗。
「肉が食えないんだったら、死んだ方がましだよ!」とまでイイヅカは言う。
さらに、ヤマザキが「肉を食いながら死ねるんなら、本望だ!」とうそぶいた。
イイヅカは、トマト、レタス、キュウリ、セロリが食えないと言う。
ヤマザキは、ナスとキノコ類が天敵だと言っている。
好き嫌いがあるのは、人間として当たり前だが、肉しか食わないおまえらが、ベジタリアンを批難するのは筋違いだろう。
オオクボが、おまえに「トマトが食えないなんて、人間として終わっているよ」と言ったことがあるか?
「シイタケが食えないやつは、軟弱でキモい!」などと言ったことがあるか?
肉食は、そんなに偉いのか?
野菜が食えないことを威張るなんて、まるで子どもじゃないか。
で……お前たち、定期的に会社の定期検診を受けていると思うんだが、結果は、どうなんだ?
私が、そう聞くと、途端に二人の声に力がなくなった。
私がもう一度聞くと、渋々と口を開いた。
「高血圧、高コレステロール」とヤマザキ。
「内臓脂肪、血液ドロドロ」とイイヅカ。
そして、二人とも「酒とタバコと脂っこいものは、ほどほどに。寿命を縮めますよ」と、健康アドバイザーに言われたらしい。
「でもな、色々な付き合いがあるから、どれもやめられないんだな。俺たちの仕事は、付き合いが一番大事だからな」
要するに、言い訳。
オオクボは、コンサルタント会社の社長様だ。
お前たちより、はるかに仕事先との付き合いは多いと思うんだが。
お前たち、肉食バーバリアンからベジタリアンに変身できるか?
「焼き肉が主食」のオオクボが出来たことをおまえたちが出来ない理由は何だと思う?
ヤマザキとイイヅカが顔を見合わせた。
50過ぎの太った親父たち。
白髪が増え、蓄積された疲労が、顔にしみ込んでいた。
その姿は、もちろん鏡となって、私の姿を映し出す。
太ってはいないが、私も似たり寄ったりだ。
だが、オオクボだけは、生き生きとしていた。
何故か、と考えたとき、オオクボは会社を背負っているからではないか、と思った。
彼が、病に倒れたら、自分だけでなく家族、そして社員、さらには社員の家族まで困らせることになる。
言い古された言い方だが、彼の体は、彼一人のものではない。
その自覚が、彼をベジタリアンに変身させるエネルギーになったのではないだろうか。
俺たちが自分の体に責任を負うのは、家族だけだ。
家族だけだから、気楽に考えているんじゃないかな。
身近すぎて、現実感がないのかもしれない。
でも、俺はオオクボを見ていて、俺たちも、家族に、もっと責任感を持つべきだと思ったんだ。
オオクボが背負っているものと俺たちが背負っているものの密度は違うかもしれないが、どんなものでもエネルギーに変えることは出来る。
ただ、俺たちは、それに気づいていないか、逃げているだけなんだと思う。
この中では、オオクボだけが、それを強く自覚している。
うらやましいな。
オオクボ以外の3人が、同時に頷いた。
彼は、肉、魚、卵を食わない。
2年前に、高血圧症と通風、と医師から宣告を受け、それまでの肉中心の食事から、半年で菜食生活にシフトした。
(魚には体にいいものもあるし、鶏肉は低カロリーだと聞くが、オオクボは徹底していた)
それまでの極端な肉食生活から、よく徹底した菜食に切り替えられたと思う。
昔は、「俺の主食は焼き肉だ」と言っていた男が。
要するに、意志が強いということだろう。
食事療法のおかげで、「肉体年齢は実年齢より15歳若いですね」と医師に言われたことが、かなり嬉しかったと語っていた。
そのオオクボと同じく、大学時代の友人ヤマザキ、イイヅカの4人で2年ぶりに食事をした。
数年前から流行りの安い居酒屋チェーン店だ(場所は新宿)。
一つ一つの単価が安いので、心置きなく食えるし、値段がわかりやすいのがいい。
その居酒屋でオオクボが食うのは、もちろん野菜オンリーだ。
「タケノコの土佐煮」「菜の花の御浸し」「ジャガイモピザ」「厚揚げのステーキ」など。
それを見た肉食バーバリアン(野蛮人)のヤマザキ、イイヅカが舌打ちをした。
「何だよ、その料理。全然、力がつかねえじゃねえか。毎日が病人食かよ! 軟弱な人生だなあ。おまえ、終わったな!」
そして、私が食ったのは、「揚げ物野菜3種盛り合わせ」と「季節野菜の天ぷら」だけ。
それを見たイイヅカが、「だから太れないんだよ!」と余計なことを言った。
(バカなやつは、野菜食は太れないと思っているが、二つとも揚げ物なので、カロリーは高い。つまり、こいつらは無知なのだ)
私は、180センチ、57キロ。
ランニングを趣味としているので、至って健康だ。
不整脈が持病だが、死ぬほどではない。
そして、肉は好物ではないが、私は家族の晩メシを作るのを趣味としているので、バランスのいい料理を心がけている。
だから、肉、魚、野菜、キノコ類などをバランスよく取っている。
無知な肉食バーバリアンとは、根本的な生き方が違う。
他の3人の肉体データを比べると、オオクボは174センチ、66キロ。
2年前までは80キロ以上あったので、15キロ近くカラダを絞ったことになる。
ヤマザキは178センチ、85キロ。
イイヅカは、172センチ、75キロ。
二人ともメタボに分類していいか、という体型である。
二人は、何度か痩せようと努力したことがあったらしい。
しかし、いずれも失敗。
「肉が食えないんだったら、死んだ方がましだよ!」とまでイイヅカは言う。
さらに、ヤマザキが「肉を食いながら死ねるんなら、本望だ!」とうそぶいた。
イイヅカは、トマト、レタス、キュウリ、セロリが食えないと言う。
ヤマザキは、ナスとキノコ類が天敵だと言っている。
好き嫌いがあるのは、人間として当たり前だが、肉しか食わないおまえらが、ベジタリアンを批難するのは筋違いだろう。
オオクボが、おまえに「トマトが食えないなんて、人間として終わっているよ」と言ったことがあるか?
「シイタケが食えないやつは、軟弱でキモい!」などと言ったことがあるか?
肉食は、そんなに偉いのか?
野菜が食えないことを威張るなんて、まるで子どもじゃないか。
で……お前たち、定期的に会社の定期検診を受けていると思うんだが、結果は、どうなんだ?
私が、そう聞くと、途端に二人の声に力がなくなった。
私がもう一度聞くと、渋々と口を開いた。
「高血圧、高コレステロール」とヤマザキ。
「内臓脂肪、血液ドロドロ」とイイヅカ。
そして、二人とも「酒とタバコと脂っこいものは、ほどほどに。寿命を縮めますよ」と、健康アドバイザーに言われたらしい。
「でもな、色々な付き合いがあるから、どれもやめられないんだな。俺たちの仕事は、付き合いが一番大事だからな」
要するに、言い訳。
オオクボは、コンサルタント会社の社長様だ。
お前たちより、はるかに仕事先との付き合いは多いと思うんだが。
お前たち、肉食バーバリアンからベジタリアンに変身できるか?
「焼き肉が主食」のオオクボが出来たことをおまえたちが出来ない理由は何だと思う?
ヤマザキとイイヅカが顔を見合わせた。
50過ぎの太った親父たち。
白髪が増え、蓄積された疲労が、顔にしみ込んでいた。
その姿は、もちろん鏡となって、私の姿を映し出す。
太ってはいないが、私も似たり寄ったりだ。
だが、オオクボだけは、生き生きとしていた。
何故か、と考えたとき、オオクボは会社を背負っているからではないか、と思った。
彼が、病に倒れたら、自分だけでなく家族、そして社員、さらには社員の家族まで困らせることになる。
言い古された言い方だが、彼の体は、彼一人のものではない。
その自覚が、彼をベジタリアンに変身させるエネルギーになったのではないだろうか。
俺たちが自分の体に責任を負うのは、家族だけだ。
家族だけだから、気楽に考えているんじゃないかな。
身近すぎて、現実感がないのかもしれない。
でも、俺はオオクボを見ていて、俺たちも、家族に、もっと責任感を持つべきだと思ったんだ。
オオクボが背負っているものと俺たちが背負っているものの密度は違うかもしれないが、どんなものでもエネルギーに変えることは出来る。
ただ、俺たちは、それに気づいていないか、逃げているだけなんだと思う。
この中では、オオクボだけが、それを強く自覚している。
うらやましいな。
オオクボ以外の3人が、同時に頷いた。