リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

日々是無関心

2016-03-13 08:44:00 | オヤジの日記
前回のブログは、反響が薄かった。
アクセス数も2割以上減った。

だが、めげずにまたヨメのことを書こうと思う。
なぜなら、「ネタの宝庫」だから。

ヨメの耳には、私以外の人の話はすんなり入ってくるようだが、私の言葉は断片的にしか届かないようだ。
そんな状態が、いま大学2年の娘が生まれた頃から続いている。
つまり、20年。

昔、人気俳優の渥美清さんが亡くなったときのことだ。

私の仕事部屋にヨメが来たので、最新ニュースとして、渥美清がなくなったらしいよ。まだ若かったんだけどね、と報告した。

すると、ヨメが言ったのだ。
「あらまた『男はつらいよ』やるの? 今度は何作目になるのかしら」

つまり、私の会話の中でヨメに届いたのは「渥美清」だけで、ヨメの頭の中では「渥美清」イコール「男はつらいよ」だから、渥美清氏の新作をやるという風に理解したのである。

その後、ヨメは幼稚園バスで帰ってくる息子を迎えに出ていった。
そして、10数分後に、「ねえ、知ってた? ママさん方に聞いたんだけど、渥美清が死んだんだって。びっくりよねえ。突然だわよねえ」と言ったのだ。

私以外の人の言葉は、普通に耳に届くらしい。


ヨメは、私の身の回りにある音も聞こえないという楽しい人だ。

たとえば、私は仕事部屋ではFMラジオを流していることが多い。
全国の天気で、日本海側の予報を告げていたとき、ヨメが仕事部屋にやってきた。

「東北の日本海側では吹雪になるところがあるでしょう」

「え? また大雪。私あした仕事なのに、また大雪。今から準備しておかないと」
慌てて、仕事部屋を出ていった。

吹雪=大雪=東京地方雪=私の仕事が大変、というように話が繋がったようだ。
「東北の日本海側」という声はヨメの耳には一切届かない。


昼メシを食っているときに、近くに住む高齢の母のお世話をしてくださっているヘルパーさんから電話がかかってきた。
昨日から、少し食欲が落ち気味だというのだ。

そこで私は、母はアジのたたきが大好きで、食欲のないときでもアジのたたきは大抵は食べます。もしアジのたたきを食べなかったら、具合が悪いということでしょうから、私が病院に連れていきます、と答えた。

その会話を聞いていたヨメが、電話を終わったあとで、「ああ、今日は久しぶりにアジのたたきなの? ちょっと楽しみねえ」と言った。

会話の中の「アジのたたき」だけに反応したのだ。
ほかの箇所の方が重要なのに、見事に飛ばして理解したようである。

だから、私は自転車をすっ飛ばして、近所のスーパーでアジを4尾買い求め、高速でさばいて晩メシの食卓に並べることになった。
その日のメニューはオムライスの予定だったが、全く違うものになった。


娘との会話。
娘のお友だちの飼い犬がうつ病にかかったかもしれないというのだ。

犬がうつ病?
ストレス社会なら、犬にうつ病があってもおかしくないかもしれない、と私は憐れみながら納得した。

きっと繊細な子なんだろうね、と私が言ったとき、ヨメがその会話を聞きつけて私たちの顔を覗き込みながら言った。
「え? とうとう我が家にも、うつ病が出たの? いまはうつ病に効くいい薬があるらしいから、早く医者に行ったほうがいいわよ。武蔵境駅の近くの女医さんは名医らしいわ。絶対に治るわよ。だから、落ち込まないで」

我々の顔を交互に見て、ヨメは大きく頷いた。

それに対して、「そうだね。早く動物病院に行くように勧めてみるよ」と娘。

「え? 動物病院?」


私事だが、私は突発性難聴のため右耳が聞こえない。
そして、いまだに原因はわからないのだが、10年ほど前から右目が極端な弱視になった。
だから、6年前に自家用車を売り、免許の更新もやめた。

だから、いま私はドライバーではない。

そのことは、ヨメに最初に告げた。

しかし、まったく伝わらなかったようである。

4年前のことだが、「ねえ、久しぶりに横浜の三渓園に行ってみない? 友だちが車を貸してくれるって言うからパパの運転で行きましょうよ」と言われた。

いや、俺はもう免許持っていないから。

「あ、そうなの? 知らなかった」


その数ヶ月後、「ねえ、友だちに伊豆に行こうって誘われてるの。車はあるけど、運転する人がいないの。パパできるわよね?」

いや、俺はもう免許持っていないから。

「あ、そうなの? 知らなかった」


そして、今週の木曜日のことである。

「ねえ、今年のお花見は、ちょっと遠出をしてみない? お友だちのサクマさんがワゴン車を貸してくれるって言うの。だから、パパの運転で東京以外のところにお花見に行きましょ」

その場所には、25歳の息子と20歳の娘がいた。
このふたりは、毎回の我々のコントをいつも見ているのだが、さすがに、もう飽きたのかヨメの言葉に何の反応も示さなかった。

私も面倒になったので答えを返さなかった。

そんな風に反応の薄い我々の態度を見たヨメは、「ああ、とうとう25年間続いた我が家のお花見も終わりになったかあ。まあ、仕方ないわよね。子どもたちも大きくなったことだしぃ」と歌うように言って、私の仕事部屋からフェイドアウトした。

そのあとで息子が言った。
「あれは、わかって言ってるんだよね」

「いや、あの人に限って、それはない」と娘。


俺もそう思う。