リスタートのブログ

住宅関連の文章を載せていましたが、メーカーとの付き合いがなくなったのでオヤジのひとり言に内容を変えました。

デブのラーメン愛

2017-07-16 06:49:00 | オヤジの日記

社長様の友人が結構多い。

 

だからと言って、私の顔が広いわけではない。

むしろ、小顔だと言われる(8頭身のガイコツ)。

 

極道コピーライターのススキダは、姑息にも外国人観光客を見込んで、将来ペンション経営を企んでいるから、2年前に下準備用の会社を立ち上げた。つまり、社長様だ。

長年の友人の尾崎も化粧品、薬局、洋酒販売、そしてスタンドバーを経営なさる社長様だ。

新宿でいかがわしいコンサルタント業を営むバッファロー・オオクボも社長様。

東京京橋でイベント会社を経営するイケメン・ウチダ氏も社長様。

 

そして、もうひとり、デブの社長様を私は知っていた。

リブロース・デブのスガ君だ。

身長175センチ、体重110キロのデブ。

2年前までは130キロの大デブだったが、結果にコミットした結果、20キロの減量に成功した。

ただ、これ以上痩せるつもりはないようだ。

「だって、俺が妻よりも体重が軽かったらおかしいでしょう!」

そうだった、あんたの奥さんは、100キロを超えていたのだったな。

ちなみに、スガ君の二人のお子様もおデブちゃんだった。

同じものを食っているのだから、太るのは当たり前だ。

 

私より14歳年下のデブは、静岡でレンタルボックス、カラオケボックス、レストラン、駐車場、倉庫などを多角的に経営する社長様だ。

しかし、よくここまで成長したものだと思う。

知り合った頃のスガ君は、しがないラーメン屋の店主だった。

私がフリーランスになりたての18年前のことだった。

埼玉でランニング仲間だった人が、訳あって静岡の実家に帰り、イベント企画会社に勤めた。

その縁で、仕事をいただくようになった。

年に3~4回、静岡に出張した。

そのとき、たまたま昼メシを食おうと寄ったのが、スガ君の店だった。

 

醤油ラーメンを頼んだ。

ひと口食って感じたのは、懐かしいな、というものだった。

うまい、まずい、濃厚だ、あるいは、物足りない、というのではなく、ただ懐かしいと思った。

厨房を見ると、デブがとても嬉しそうに、ラーメンを作っていた。

その笑顔からは、大きな「ラーメン愛」が伝わってきた。

会計のとき、心にしみる味だね、ありがとう、と言った。

そのときのスガ君の笑顔は、ヒマワリのように鮮やかだった。

 

次に行ったとき、スガ君が私の顔を見て、「あ! また来てくれたんですかぁ!」とヒマワリ顔で出迎えてくれた。

私のことを憶えていてくれたのだ。

スガ君とは、それで友人になった。

 

だが、この店は長く続かなかった。

4年半で店を畳んだ。

そして、離婚。子どもの親権も元妻にとられた。

失意のうちに東京へ逃げたスガ君は、弟のアパートに居候をしたが、働く意欲がまったくわかなかった。

そんなとき、愚痴を言う相手に私が選ばれた。

文京区春日のラーメン屋で、延々と愚痴を聞かされた。

私はポンコツなので、人に的確なアドバイスができない。ただ話を聞くだけの木偶の坊だった。

ラーメン一杯で店に居座ろうとするスガ君を睨む店主に気を使い、私はスガ君の分のラーメンのお代わりを毎回頼んだ。

スガ君は、大抵はラーメンを4杯食った。

失意のまっただ中でもラーメンを4杯も食えるとは、なんてラーメン愛に満ちあふれているのだろう。

 

唐突だが、スガ君は、女優の広末涼子さんのファンだった。

ある日、テレビで広末さん主演の「秘密」という映画の再放送を観たとき、「俺はこのままじゃいけない」と思ったそうだ。

静岡に帰ることにした。

なぜ、そう思ったかは聞いていない。

デブの感情になど興味がない。

 

静岡に帰ったスガ君は、すぐに職を得ることができた。

それが、今の会社だった。

そこで、彼は社長の娘さんと再婚し、4年後に義父が亡くなったため、会社を継いで今に至る。

私に負けないほどのポンコツ野郎のスガ君が、順調に事業をこなすなど予想外だった。

2年前からは、東京神谷町に事務所を構え、介護関係の事業を立ち上げる準備をしていた。

 

立派な社長様だ。

「地位は人を作る」というのは、本当だと思った。

 

一昨年の7月まで、ラーメン愛に溢れたスガ君は年に500食ほどのラーメンを食べ歩いた。

私もたまに付き合わされた。

175センチ110キロのデブと180センチ56キロのヒョロヒョロ。

なかなか、いいコンビだと思う。

吉本の舞台に立ったら、人気者になったかもしれない(コンビ名は『Tボーンステーキ』)

 

一昨年の7月、スガ君にとって悲しい出来事が起きた。

3軒のラーメン屋の店主から、立て続けに「お客さん、水飲み過ぎだよ」「ラーメンを食べにきたのか水を飲みにきたのかわからないね」「そんなに水を飲んだらスープの味がわからないだろうに」と苦情を言われたというのだ。

デブは、とても汗かきだ。

だから、水分を補給しないと死んでしまう。

ラーメン愛に溢れているが、「水分愛」にも満ち溢れている男なのである。

それくらい、なぜ許してくれないのか。

 

それがショックで、スガ君はラーメンの食べ歩きをやめた。

自宅で作るだけにした。

もともとがラーメン屋だから、本格的なものだ。

大量に作って、ご近所にも振る舞うのだという。

「皆さんの喜ぶ顔を見るのが、今の最大の喜びですね」

 

ヒマワリ顔でラーメンを愛するスガ君を見て、「水ばかり飲みやがって」と文句を言う人は、自分が作るラーメンだけを愛して客を愛せない可哀想な人だ。

 

そんなやつに商売をする資格はない。

 

スガ君の頭は今、介護事業のことで一杯だ。

愛に溢れたデブは、「介護愛」も持っている器のでかい男だ。

 

 

ただ、最近、スガ君はあるショックな事実を知って、大きく凹んだという。

スガ君が、東京に出張している間に、奥さんとお子さんが、静岡の有名ラーメン店に行ったというのを人づてに聞いたらしい。

 

「アニキー、俺、こんなにショックなこと、ラーメン屋を辞めて以来ですよぉー。この間、妻と5年ぶりに喧嘩しましたぁ」

スガ君は、数年前から、なぜか私のことを「アニキ」と呼んだ。

デブのハーフサイズしかない、情けないアニキだ。

そして、この情けないアニキは、よそ様のご家庭のことにはノータッチだ。

 

私は、たかがラーメン、されどラーメン、というわけの分からないことを言って逃げた。

アニキは、逃げ足だけは速いのだ。

 

 

あれから、スガ君一家が、どうなったかは怖くて聞いていない。