杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

『ホビット』で最先端映像体験

2012-12-21 11:12:31 | 映画

 私が大好きな『ロード・オブ・ザ・リング(以下LOTR)』シリーズの最新作・『ホビット~思いがけない冒険』の公開が始まりました。

 

 10年前にLOTR(第1部・旅の仲間)が公開されたときは、ちょうどハリーポッターシリーズと時期が重なっていて、英国産ファンタジー便乗作品&「指輪物語」って名前は知ってるけど読んだことないからこの際知っておくのも損はないか…ぐらいの軽い認識で観に行ったんですが、その完成度の高さに驚き、ハリウッドのビッグネームではないニュージーランドの監督&スタッフの制作と知って興味が沸き、それから第2部二つの塔、第3部王の帰還と、ドラマが進むに連れてどんどん作品にのめり込んでいきました。

 

 

 さらに、制作秘話が紹介されたDVD特典映像を見て、映画作りにかける監督&スタッフの熱意と、まるで学生仲間で自主映画を創っているようなノリのよさ、NZクリエイターたちの気負いのない純粋な姿勢に感動しました。このことは、当時、しずおか地酒研究会の会報誌で何度も書いて、モノをつくるひと・支えるひとの信頼関係の大切さを訴えたものです。「真弓さんがそんなに褒めるなら」と観に行ってくれた地酒研会員さんもいたようです。

 

 

 『王の帰還』がファンタジー映画としては前代未聞のアカデミー作品賞&監督賞ふくめ11冠に輝き、ピータージャクソン(PJ)監督もすっかりハリウッドメジャーとなり、LOTRに熱くなった時代も遠くなりにけり・・・と思っていたころ、指輪物語の前章にあたる『ホビット』が、PJのプロデュース、ギルレモ・デル・トロ監督(「ヘルボーイ」「パンズ・ラビリンス」)で映画化されるというニュース。ハリーポッターや007シリーズも監督がそのつど変わったりするから、シリーズものの製作では珍しくないかもしれないけど、PJとその仲間たちが創り出したLOTRシリーズの世界観とは変わるかも、と思ったら少しさびしい気もしました。

 

 オーディションで選ばれたという主役ビルボ役のマーティン・フリーマンも、LOTRシリーズのいかにもファンタジーの主人公たる童顔美青年イライジャ・ウッドとはまったく違うおっさんタイプ(笑)。その後、なんやかんやで製作が遅れ、結局、PJがメジャーになりすぎていろんなしがらみが出来て、純粋な映画づくりが出来なくなっちゃったんだろうと半ば諦めていたところ、PJが自らメガホンを取って2011年からクランクインするというファンにとっては願ってもないニュース! 

 

 マーティン・フリーマンはこの間、英BBC『シャーロック』のワトソン役で英国ドラマアカデミー賞なんか取ったりして、私も『シャーロック』を通して初めて彼の演技を知ることに。彼は、『シャーロック2』の撮影と調整がつかなくなって、泣く泣くビルボ役を降りることになったのですが、その後、PJが『シャーロック』を見て、「彼がワトソンではなくビルボに見えた」そうで、やっぱり彼しかいない、ということで、ホビットの撮影スケジュールを彼に合わせてずらしたんだそうです。

 

 ・・・自分も今ハマっている『シャーロック』を、自分がハマった映画の監督が同じようにハマったなんて、なんだかウキウキしてきますね。ちなみにシャーロック役のベネディクト・カンバーバッチも、『ホビット』に出演しています。声の出演&モーションキャプチャーでの悪役なので顔はわからないけど。

 ちなみにちなみに、『シャーロック』は新年早々NHKで再放送されますので、観てない方はぜひ!(こちらを)。

 

 

 

 そんなこんなで、12月14日、待望の『ホビット』公開初日。妹夫婦を誘って新静岡セノバのシネシティザートで観に行きました。最初にタイトルが出てきたとき、LOTRのタイトルロゴと同じ書体だったのにまず感動し、舞台となった“中つ国”が3Dの世界になったことだけで涙が出そうになり、ストーリー展開が、LOTRの第1部旅の仲間と同じように構成されていて、「ああ、10年ぶりにLOTRの世界に還ってこれたんだ」としみじみ嬉しくなりました。

 

 妹夫婦はLOTRシリーズを観ていないので、単に話題の作品を話のネタに観たって感じでしょうか、エンドロールのクレジットが流れ始めたら早々に退席。私もしぶしぶ一緒に退席しました(もちろん後日改めて一人でゆっくり見直すつもりで)。

 エンドロールのクレジットって、映像を作った経験のある人なら解ってくれると思いますが、本当に、映画というのは機械が造るんじゃなくて、一人ひとりの力が結集して生み出されたものだって実感させられるんですね。

 

 

 3D字幕版は、いつもかける近視用メガネの上に3Dメガネを二重にかける苦痛と、字幕が浮き上がって邪魔になるという難点もあります。見終わった後は、やっぱり疲れるんですね。できたら今度は吹替え版で観ようと思ったところ、ファンサイトをのぞいたら、『ホビット』は世界で初めて、HFR(ハイフレームレート)3Dという最先端映写技術で撮られていて、HFR3Dが上映できる映画館は限られていると知りました。

 

 フレームとは、映写機が1秒に映写できるコマ数のことで、現在の映画館の標準は毎秒24フレームですが、HFRはその2倍の48フレームで撮影・映写できる技術。人間が1秒間に目視できるフレームの上限は55フレームだそうで、人間が生で視たものにより近くなる、というわけです。

 

 

 PJはインタビューで、

「最近ではiPhoneやiPadなどで映画が簡単に見られるので、映画館へ行く理由を作るのが難しいということがある。『ホビット』のような大作を最新のテクノロジーを使って映画館で見てもらいたいという思いから、HFR3Dを採用した」

「観客が前のめりになるようなものを作り、映画の冒険に引き込みたい。きっと今までの映画とはかなり違う感覚で見ることになると思う。映画館が本来提供するべき、どっぷり浸かれるような豪華な体験を実現するべく、フィルムメーカーが最新の技術を使うのは非常に大事なこと。今は映画館が面白い時代だと思う」

と言っています。

 

 こういう記事を読んじゃうと、どうしてもHFR3Dが観たくなっちゃうじゃないですか。でも調べたら、HFRで上映しているのは全国で33館のみ。静岡県ではゼロです。遠出して観に行ける時間は年内は作れないし、かといって限定上映だから気がついたら終わっていたなんて可能性もあるし・・・とジレンマに。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、20日、沼津での取材が16時ごろ終わったあと、思い立って、貴重なHFR上映館の一つ・藤沢の109シネマズ湘南まで車を飛ばして観に行きました!ここでは、IMAXシアターでのHFR3D上映という、全国でも7館のみの、世界最高峰の映像体験ができるのです。

 

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  IMAXシアターって、よく博覧会の企業パビリオンなんかで、宇宙とか大自然なんかの大迫力映像をちらっと見たことはありますが、映画を丸々1本観るのは初めて。しかもHFRという直接ナマで視た感覚にもっとも近いフレーム。俳優さんの肌の毛穴までクッキリ見えるし、すぐ目の前に居るような錯覚だし、岩と岩の隙間深く落ちていくシーンなんてマジで自分が落ちていくみたい。・・・なんともいえないビックリ体験でした。

 ちょっと不謹慎かもしれないけど、この映像技術で地震や津波等の訓練映像を作ったら、たとえば自衛隊や消防や警察関係者にとってはホントに実践さながらの机上訓練が出来るんじゃないかと思ったくらい。実際、パイロットの訓練ビデオなんかにはあるのかなあ。

 

 

 

 それはともかく、前回と同じように3D字幕版で観たのですが、前回のような疲労感はさほど感じませんでした。フツウの3Dだと、知らず知らずに細かなちらつきやブレを感じるんですね。今回は字幕に多少ブレがあったくらいで、映像は素晴らしいの一語に尽きます。観客に、直接ナマの中つ国に入り込んだような世界観を体験させるということは、創り手のほうも、いいかげんなものは創れないってことですよね。ファンタジー実写作品でそれに挑戦したPJの勇気とクリエイター魂に、惜しみない拍手を送りたいと思います。LOTRから10年経っても少しも変わらない映画作りへの情熱、とても嬉しかったし、大いに刺激をもらいました。

 

 

 

 エンドロールもほとんどのお客さんが最後まで席を立たず観ていました。終了したのは23時前。朝型人間の私はいつもなら布団に入る時間ですが、車で2時間30分かかって静岡まで戻りました。さすがに疲れたけど、心地よい疲労感です。

 

 

 次は、フツウに2D吹替えで、物語をじっくり楽しみましょうか。