杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

スマイル静岡茶特集2013 その3~産地編

2013-06-11 20:34:41 | 農業

 JA静岡経済連の情報誌スマイルの静岡茶特集。茶産地の新たな取り組みについて、2ヶ所の事例を紹介しました。

 

 菊川市は、今、ブームの『深蒸し茶』発祥の地なんですが、NHKのためしてガッテンで取り上げられたのが掛川の深蒸し茶だったので、深蒸し茶イコール掛川のイメージが全国的に浸透してしまったよう。それはそれで静岡県人として喜ばしいものの、菊川で長年、深蒸しをこだわって作り続けてきた生産者にしてみたら、内心、複雑じゃないのかなあ・・・。

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 と思っていたところ、JA遠州夢咲管内で、プレミアムな菊川深蒸し茶を新発売したと聞いて取材しました。寿命の尽きた茶園をいったんリセットして、新たに“更新”した新芽だけを使った『茶更(ささら)』です。

 

 お茶の取材で“更新”という言葉を聞いた、その新鮮な驚きと、深蒸し茶の中にもピンからキリまであることを実感した顛末は、こちらの記事で紹介しましたので、ご確認ください。

 

 

 

 

 

 

 もう一ヶ所は静岡市の安倍川奥・梅ヶ島です。最初、聞いたとき、「梅ヶ島ってお茶の産地だっけ?」とピンとこなかったのですが、考えてみれば静岡って、川根とか牧之原とかの有名茶産地じゃなくても、どこでも、ちょこっと郊外に行けば、そこかしこに茶畑がある。他県や他国の人からみれば、静岡県全体が『茶産地』なんですね・・・。

 そういえば、昨年末にアメリカに住む妹がアメリカ人の夫と里帰りしたときも、夫ショーンは、うちから近い賎機山のふもとにある茶畑を見つけて物珍しそうにやたら写真を撮ってましたっけ。

 

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 それはさておき、梅ヶ島の藤代・大代・戸持・入島の4地区の茶生産者が1996年に共同設立した「まるうめ共同茶業組合」で、『石激る垂水の里 こくり茶 “梅里”』というティーバッグ&ドリップバッグのお茶を開発しました。

 最初、パッと見せられたとき、「なんて読むの!?」と目がテンになっちゃいました(苦笑)。これをストレートに読める人は、国文学に精通した人かもしれません。

 

 

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 万葉集で志貴皇子が歌った「石激(いわばし)る 垂水(たるみ)の上の早蕨(さわらび)の 萌え出づる春になりにけるかも」がモチーフになっています。この歌の情景そのもの、といった景観が、この地区にあるんですね。JA担当者から提供していただいた写真ですが、いいですよねえ。

 

 

 

 

 

 

 清流だけではなく、この地区一体が知る人ぞ知る山野草の宝庫なんです。

 

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 私が取材に行ったのは3月終わりで、花は少なかったものの、シュンラン(左)を見つけました。これから夏にかけて、イワタバコ(右)などが見られます。

 

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 現在、「NPO法人郷里の自然をはぐくむ会」が調査を行い、ハイカー向けの案内看板やガイドマップなどを作る予定とのこと。このお茶が、梅ヶ島という山里の新しい魅力発見のきっかけになれば素敵ですよね。

 

 
 

 

 

 

 

 山のお茶は、生産面積を広げ、大型機械を入れることのできる平野部とは違い、限られた面積で、平地よりも1~2ヶ月生育が遅いなど、さまざまなハンディを背負っています。

 

 一方、標高1000メートル級の傾斜地で、一級河川の川霧のマイナスイオンをたっぷり浴びたみずみずしい茶芽からは、豊かな香りとすっきりとした渋7味、まるで静岡吟醸のような洗練された味わいを楽しめるのです。

 

 

 “こくり”とは、時間をかけてじっくり手揉みで仕上げる製法のこと。途中まで機械製揉しても、最終工程で“こくり”を施すことで、抽出すると清澄山吹色の美しいお茶に仕上がります。豊かな香りと渋味と澄んだ山吹色・・・これぞ山の茶です。

 

 

 

 

 

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 左が静岡・梅ヶ島の『石激る垂水の里 こくり茶 “梅里”』。

 

 右が菊川深蒸し茶の『茶更』。

 

 

 

 

 

 

 一口に「静岡茶」といっても、これだけ見た目が違うし、味わいも違います。同じ品種(やぶきた)なのに、産地の違い、作り手の違い、精揉加工の違いによって、これだけ幅のある飲み物になるんです。この2つを飲み比べるだけでも、実に面白い!

 

 

 なお、『茶更』はJA遠州夢咲管内の菊川茶販売所、『梅里』は梅ヶ島地区の観光施設のほか、JA静岡市じまん市、JR静岡駅構内の駿府楽市、久能山東照宮で販売しています。機会があったらぜひお味見くださいませ!