新酒が続々と出回るこの時期、酒が搾られるということは、酒粕もたんまり出る!わけで、当ブログにも「酒粕」検索してこられる方も増えています。そこで改めて酒粕についての考察をまとめてみました。
静岡県の酒蔵では、原料の米を徹底的に洗ってきれいな蒸し米を造り、その蒸し米からいい麹、いいもろみを醸し出す。当然、酒を搾った残りの酒粕も雑味が少なく、風味が素晴らしい。蔵元によっては、もろみ100のうち、5割以上を酒粕にしてしまい、酒は搾りに搾った真の滴だけ・・・というこだわった造り方をしています。昔は酒粕が多い=酒が少ない=下手な造り方というレッテルを貼られたそうですが、今は180度評価が変わりました。経営者が杜氏になるケースが増え、こういうぜいたくな酒造りも可能になったんですね。当然、原料にもこだわりの酒造好適米を使っていますので、酒粕がいいのも当たり前、というわけです。
写真左は吟醸バラ粕。吟醸酒はもろみを酒袋に入れて積み上げ、上からゆっくり圧力をかけて、自然に搾り出てくるのを溜める、という方法をとることが多いので、酒袋に残った粕もふんわりしっとりしています。期間限定ですが蔵元や地酒専門店で入手できます。吟醸酒の風味が残っているので、私はドリンクや鍋など“汁物”に使うようにしています。冷凍すれば1年は保ちます。
写真中央は板粕。吟醸酒よりも精米率の低い酒は、ヤブタというアコーディオンのような搾り機で強制圧縮させて搾ります。圧力が強い分、酒粕も板状になります。
写真右は板粕を3年冷蔵保存したもの。ナッツやチョコレートボンボンのような風味になります。これが意外に調味料として重宝するんですね。味噌やチーズなど他の発酵食品との相性もGOOD! 酒とみりんを加えてペースト状にすれば、粕漬の床になります。粕漬床は冷蔵保存し、1ヶ月ぐらいで使い切ってください。
しずおか地酒研究会では、2004年の浜名湖花博「庭文化創造館」で、真夏の『雪見の庭』を眺めながら、静岡の蔵元が持参した酒粕を使って冷やし甘酒を提供し、多くの方に喜ばれました。このとき、酒粕の効能についていろいろ資料を集め、調べてみたところ、目からウロコのネタばかり! それまでは何といっても酒が大事で、粕は眼中になかったため(笑)、猛省させられました。
そもそも酒粕とは、酒のもろみを搾った後、役目を終えた酵母や、清酒にならなかったデンプン、たんぱく質、ビタミン類のかたまり。脳の活性化に効果のあるグルタミン酸、疲労回復に効果のあるアスパラギン酸、メラニン生成を抑制するシステイン、体内で合成できない必須アミノ酸のロイシン(肝機能強化)、リジン(脂肪燃焼や鎮静作用)、アルギリン(免疫力向上)等、20種類以上のアミノ酸がバランスよく含まれます。米に比べ、アミノ酸の総量はなんと583倍。ビタミンB2は26倍、B6は47倍というグレードです。
アミノ酸が豊富ということは、肌の保湿力や美白効果を促進してくれます。もちろん頭髪にもいい。さらに、アレルギー症状をやわらげ、高血圧抑制やボケ防止にも効果があるといわれる優秀な酵素ペプチド、ヨーロッパでは抗うつ剤に使われるS-アデノシルメチオニン等の有効成分も。
今、酒粕の有効成分として注目されているのが、2010年秋にNHKためしてガッテン酒粕特集で紹介された「レジスタントプロテイン」。食物繊維のように消化されにくい性質を持つたんぱく質で、体内に入ると、消化されずにそのまま小腸に行き、食物の脂質と結びついて、そのまま体外へ排出させるというのです。排出=大便はいつもより脂質が多くなるので、お通じがスルッとなって、便秘改善 → ダイエットの味方!に。
脂っこいものを食べるとき気になる“悪玉コレステロール”も、レジスタントプロテインが抱え込んで排出してくれるので、コレステロール数値が下がり、血液がサラサラ → 動脈硬化予防につながります。自分は手遅れだけど(涙)、20~30代の早いうちから常食しておけば、成人病のリスク軽減になると思います。ぜひ酒粕を常備食材にして、賢く利活用してください。
2004年の浜名湖花博ではキッチンディレクターの田米嘉宏さん(浜名湖ロイヤルホテル調理部)が甘酒作りや酒粕デザートレシピを担当してくれました。日ごろお世話になっている蔵元の奥様たちからも、アイディアレシピを教えてもらっていますので、いくつかご紹介すると―
☆甘酒の作り方/酒粕350gに対して、水1ℓ、上白糖140g、塩小さじ2分の1を用意。酒粕を鍋に一度に入れると焦げやすいので、ボールなどで少量ずつ溶かして鍋に移し、最後に上白糖と塩で味付けすると、上手に仕上がります。最近は甘酒ブームで甘酒用麹がたくさん出回っていますので、砂糖を使わず、酒粕と麹を半々ずつにして、麹の自然の甘みで仕上げてもよいと思います。
☆豆乳甘酒/甘酒を作る時、水を豆乳にします。レジスタントプロテインに大豆プロテインが加わり、強力な健康ドリンクに! 私は、新鮮な吟醸粕が入手できたときは、ミキサーに豆乳200CC、酒粕20グラム、ハチミツ少々を入れて攪拌させ、スムージー感覚で飲んじゃいます。加温すると死滅しちゃう酵母が活かされるし、風味もバツグン。朝の快便間違いなし! ただし微量ですがアルコール分がそのまま残りますので注意してください。
☆酒粕ピザ/板状の酒粕にとろけるチーズを乗せてオーブントースターで6~7分。トースト代わりになります。バラ粕ならギョウザの皮に乗せて、ハーブソルトとオリーブオイルをふりかけ、トースターで3分。簡単なおつまみになります。
☆酒粕と味噌のカナッペ
材料/フランスパン、酒粕30g、田舎味噌20g、上白糖10g、万能ネギの小口切り大さじ1、日本酒大さじ1)
①フランスパンを5ミリ厚に切ってオーブンで軽く空焼きします。
②酒粕、味噌、上白糖、日本酒、ネギを混ぜ合わせます。一緒に呑む酒の味に合わせて甘さを加減するとよいです。個人的には、ちょっと砂糖多めにするほうが酒の味がひきたつかなあ…。
③パンに②を塗り、オーブンで焼き色が付くまで(7~10分程度)焼きます。和風に徹したかったら、パンを油揚げに代えてもOK。
☆酒粕サブレ(60~70個分)の作り方/酒宴向けのひと手間かけたデザート。バター60gを常温に戻し、酒粕150gとなじませ、グラニュー糖200gを加える。振るった薄力粉250gを加えて、こねずにざっくり合わせます。棒状に伸ばして適当な数に切り、160度のオーブンで10~15分焼きます。
☆かんたん酒粕鍋/冬の寒さはコレでしのいでいます。土鍋に湯を沸かし、こぶ茶(だし代わり)、酒粕、味噌少々を融かし、適当に具材を煮込むだけ。とくにお気に入りの芽キャベツは甘さがグンと増します。こぶ茶をコンソメに代え、酒粕+味噌+バター+牛乳でホワイトシチューにしてもよし。
ちなみに、酒が残っているときは、思い切って『美酒鍋』にしています。土鍋に油をひいてにんにくを炒め、香りが出たところで肉を炒め、火が通ったら野菜を加え、塩コショウする。ざっくり火が回ったところで日本酒を鍋半分ぐらい入れてだし醬油(めんどくさいので顆粒状だしの素をふりかけ+しょうゆ)で味付けし、煮込む。むちゃくちゃ体が温まりますよ。
NHK『ためしてガッテン』が酒粕の有効成分について取り上げて以来、酒粕イコール健康食品のイメージが定着したことから、東広島にある独立行政法人酒類総合研究所でも酒粕の機能性成分について本腰を入れて研究し、新しい有効成分を発見しました。4年前、研究発表会を聴講したときのメモをまとめてみます。
注目される高機能性成分とは、S-アデノシルメチオニン(SAM)と葉酸。SAMは清酒酵母が高含有する成分で、肝障害、ウツ、関節炎を防ぐ効果があり、欧米ではサプリメントとして広く知られています。国内産のサプリメントは2社から発売されており、いずれも清酒酵母から成分採取されているそうです。
葉酸は欧米では子ども向けのシリアルにも使われる高機能性成分で、妊婦の滋養に効果あり。先進国では日本だけ摂取量が低いといわれるものです。
酒粕に含まれるSAMは、豚レバーの約27倍(最大で116倍)、葉酸はホウレンソウの約0.8倍(最大で2.5倍)。最大値との数値に開きがあるのは、サンプルに使われた酒粕の違いによるものです。たとえば酒の主要成分であるタンパク質は、普通酒では14.4%、大吟醸では5.5%、液化仕込は25.3%というように仕込み方法の違いによって酒粕にまで成分の差がハッキリ出るんですね。とくに酒粕をあまり出さない液化仕込と、酒粕をもろみの5割以上出す大吟醸では、極端な差があります。
そんなこんなで酒粕の成分検査は、複雑かつ判断が難しいようですが、酒粕の有効成分が話題になる中、あらたにSAMと葉酸の高含有が科学的に解明され、ますます頼もしく感じました。
SAMや葉酸は、酒粕を冷凍保存(マイナス30℃)することで長期保存でも含量が損なわないようです。とくに酒粕を凍結乾燥させると安定性が劇的に向上する。凍結乾燥の酒粕が機能性食品として開発される日も必ず来るでしょう。
後日、東京のある酒宴で、偶然、NHKためしてガッテンの酒粕特集を担当した番組ディレクターとお会いし、さっそくこの話をして酒粕特集第2弾を、とアピールしたんですが、そのディレクター氏、ほどなく異動になってしまったとか。・・・せっかくの研究成果ですから、酒類総研はうまくメディアを活用し、発信してほしいと思います。
さて昨年末に発売された『杉錦生酛特別純米・しずおか地酒研究会20周年記念酒』の生原酒バージョンに続き、2月1日には加水火入れした通常バージョンが発売になりました。ラベルは、明治~大正頃、生酛を造っていたであろう蔵元杉井均乃介さんのご先祖をイメージし、鉛筆画で描かせてもらいました。冷酒でも常温でも燗でもダラダラ呑める懐の深い日常酒です。
価格は4合瓶で1512円、一升瓶で2916円。取扱店は前回の生原酒バージョンより少し増えるようで、蔵元の方で今週中に取扱店リストをまとめてくださる予定です。追ってご連絡しますので、どうぞよろしくお願いします。