杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

奈良の初詣巡礼

2015-01-04 20:08:49 | 仏教

 2015年あけましておめでとうございます。今年も【杯が乾くまで】をよろしくお願いいたします。

 

 大晦日から元日にかけ、友人と奈良へ初詣ドライブに行ってきました。急に思い立って計画したので、行き当たりバッタリの珍道中。新年早々ヘビーな体験の連続でした。

 ギリギリまで原稿書きに追われた大晦日、15時ころ、磐田市に家族の菩提寺がある友人を「ららぽーと磐田」でピックアップして、4時間ちょっとで桜井駅前の素泊まりの安宿に。周辺に食堂らしきものはなく、コンビニできつねどん兵衛と緑のたぬきを買い、持参した【國香】と、ららぽーとで買った乾きモノで、紅白を見ながら2014年最後の晩餐。23時過ぎに宿を出発して、JRで一駅の三輪へ。2015年は大神神社で年越しです。

 

 大神神社。祭神の大物主大神(おおものぬしのおおかみ)は国造りの神様として、農業、工業、商業すべての産業開発、 方除(ほうよけ)、治病、造酒、製薬、禁厭(まじない)、交通、航海、縁結びなど世の幸福を導く人間生活の守護神です。 地酒ファンにとっては酒蔵の軒下に吊り下がる酒林(杉玉)発祥の神としてもお馴染みですね。杜氏の高橋活日命(たかはしのいくひのみこと)が祭神の神助(しんじょ)として美酒を醸したことから、医薬の神様や酒造りの神様として広く信仰を集めています。

 私は奈良に来るたびに時間があればお参りしていますが、初詣は初めて。しかも1月1日午前1時から、日本で一番早いお祭り=繞道祭(にょうどうさい)が執り行われるとあって、今年はこれでスタートしよう!とはるばるやってきたわけです。

 繞道祭はご神火を小松明に点し、2人の神職が拝殿内を走り出て、拝殿前の斎庭で待つ3本の大松明に火が継がれ、先入道・後入道と称する2本の大松明(長さ約3メートル)と、少し小さめの神饌松明の計3本を氏子の若者がかつぎ、神職と共に山麓に鎮座する摂末社19社を巡拝するという火祭り。します。ちなみに繞(にょう)とは、「めぐる」という意味だそう(・・・まだまだ知らない漢字があるなあ。反省反省)。松明の炎を見ていると、意味もなく高揚してきちゃいました。

 

 酒林(杉玉)は、大神神社のご神木である杉に霊威が宿ると信じられ、酒屋の看板代わりに杉葉を束ねて店先に吊るす風習が生まれました。杉には滅菌効果があるので醗酵を司る作業場に適していたともいえます。

 元禄期、英一蝶が大徳寺門前の又六という酒屋の前で酩酊している一休さんを描いた「一休禅師酔臥図」という画があり、ここに酒林らしき杉葉の束が描かれています。一休さんが謳った「極楽を いづくのほどと 思ひしに 杉葉立てたる 又六が門」(極楽がどこらあたりだろうかと思っていたが、杉の葉をしるしに立てた、酒屋の又六の門であった)という歌がベースになっているそう。・・・ったく禅の坊さんってしょうがないなあと微笑ましくなってしまいます。大神神社では酒林は売っていませんが、毎月1日にはお清めをうけた杉の葉をばら売りしてくれるので、今冬取材でお世話になる蔵元さんへの手土産にゲットしました。

 

 

 元旦の未明までは思ったほど寒くなく、月や星まで見えて「お天気良くなるじゃん」と友人と喜んでいたのもつかの間、陽が昇ってからは寒気がドッと押し寄せてきました。朝9時ごろ宿を出て、午前中向かったのは大安寺。かつて東大寺や興福寺と並んで南都七大寺の一つに数えられた古刹で、今は厄除け・ガン封じの祈祷寺として知られています。ガン闘病中の友人に勧め、ご祈祷を受けることに。大般若経の転読に私も立会い、功徳のおこぼれに預かることができました。

 

 

 古典芸能に親しむ友人の希望で、次に訪ねたのは當麻寺。ちょうど13時から護摩祈祷が始まるというので、不動尊が祀られる中之坊護摩堂に入れてもらい、般若心経と不動明王慈救呪を読経しました。願い事を書いた護摩木が不動尊の炎に投じられる約1時間、ひたすら繰り返しの読経。般若心経は何度も読んだことがありますが、慈救呪は初めて。「ノーマクサーマンダーバザラダン センダンマカロシャダ ソワタヤ ウンタラターカンマン」というやつです。

 狭い護摩堂の中に我々を含めて10人ほど。1時間強の正座と読経はちとキツく、堂内は次第に炎の熱と煙に覆われ、息苦しくなってきます。煙が天に届くと、天がそれを食し、代わりに人に福を与えるというバラモン教由来の教えなんだとか。お香の渋~いスモーキーフレーバーが全身に染み付いてきます。ご祈祷がひと段落したあと、ビリビリ状態の足を引きずりながら護摩壇の残り火を拝んだら、テレビでしか見たことのない密教系の護摩行を体感した驚きと、痺れるような充足感を感じました。

 

 中之坊には片桐石州が改修した池泉回遊式庭園と石州が建てた茶室「丸窓席」があります。當麻寺といえば曼荼羅で有名な中将姫の印象しかなかったのですが、数多くの文化財を有し、今ではお抹茶体験、曼荼羅の写仏体験、尺八体験なんていうのも出来るそうです。あらためてじっくり訪ねようと思いました。

 

 

 次いで、昨年10月の茶道研究会京都研修で飛び込み参加してくれた奈良在住の同級生にお礼がてら、法隆寺へ。彼女の嫁ぎ先の実家が法隆寺のすぐそばにあり、「元日はさすがに嫁らしいことをしないと」と時間のない彼女にわざわざ法隆寺門前の茶店まで出て来てもらい、年始がわりに磯自慢の新酒を贈りました。

 法隆寺を訪ねるのは20年ぶりぐらい。拝観料が1500円になっていてビックリ!!でしたが、百済観音や夢違観音や玉虫厨子が間近に見られる大宝蔵院には大満足でした。百済観音のお顔、こんなに人間的で慈悲深くお美しかったのかとしみじみ。1500円払う価値は十分です。

 久しぶりに仰ぐ夢殿も、こんなに美しい建造物だったのか・・・と認識を新たにしました。八角円堂という建築スタイル、中国の八方位陰陽説がベースになっているようで、八角をつなげると限りなく円に近づく。円の中心には聖徳太子の化身と言われる秘仏救世観音像。この配置、つくづく宇宙的ですね。

 

 

 16時過ぎ。法隆寺門前の茶店を出て帰路に付こうと思ったら、雪が降り始めていました。名阪国道を東に進むにつれ、次第に雪が激しくなり、伊賀サービスエリアでトイレ休憩をとったはいいけど、サービスエリア出口から数珠繋ぎ状態。2時間動けず、雪はずんずん積もってきます。

 

 友人は過去に伊勢参りのドライブで雪に遭い、ノーマルタイヤで何度もスリップ事故を起こしそうになったそうでトラウマになっていました。彼女を落ち着かせようと「大丈夫、こんなノロノロ運転なら事故ることないって」「あれだけ火の神様を拝んできたんだから安心して」って言いつつ、フロントガラスが凍りつき始め、視界が悪くなって、内心やばいやばいと冷や汗。ハンドルを握り締めたまま硬直してしまったとき、タイミングよく彼女が除湿ボタンを押してくれて一気に視界が開け、「はぁ~一人じゃなくてよかったぁ」と安堵しました。

 道路サイドには立ち往生した車がゾロゾロ。走行をあきらめて雪被り放題の乗用車もありました。前を走るのが軽自動車だと、車体ヨロヨロ、タイヤもズルズルで「もらい事故したくないよぉ」と車2台分ぐらい車間距離を空け、伊賀から亀山までは時速20キロ以下、ほとんどエンジンブレーキだけの牛歩前進でした。伊勢湾岸道路に出たのは23時過ぎ。刈谷サービスエリアで夕食をとったのは午前0時を回っていました。交通情報で名神や新名神は通行止め、名阪国道も下り大阪方面は通行止めと知り、「やっぱり火の神様に守られたんだ」としみじみ…。新東名に入ってから「横風注意」の警告サインを見て、友人と「静岡ってつくづく平和だねえ~」と笑ってしまいました。

 

 睡魔と激闘しつつ、午前3時に無事帰宅しました。下界へ戻るのに11時間・・・それだけ神仏の世界は遥か遠く、貴かったんです(笑)。というか伊賀越えってホントにキツいんだなあと実感。本能寺の変のときの家康公の災難を想起します。

 せっかくありがたいご祈祷を受けたのにシンドイ思いをさせてしまった友人と、難路を乗り切ってくれた愛車アクアに感謝。スモーキーフレーバーがいまだ染み付いたままのダウンコートにも頼れる防寒具として感謝感謝です。

 友人からは「運がよかったと思っちゃダメだよ」と釘を刺されました。ホント、今冬のお天気はつくづく油断できません。スタッドレスやチェーン装備のない人、絶対に無理しないでくださいね!

 



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4 コメント

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Unknown (Unknown)
2015-01-06 17:34:23
おめでとうございます。無事に戻られてほっとしました。
無謀運転そのものです。注意しましょう。わたしは、雪の降るところには冬絶対に行きません。コントロール不能という経験があるからです。無事で良かった。 猫爺
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Unknown (鈴木真弓)
2015-01-06 19:04:54
ご心配いただきありがとうございました。冬場、伊豆へ取材に行くときは1度や2度、雪道で苦労しますが、逃げ場のない自動車専用道路での大渋滞は辛いですね。猛省してます。
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ご無事でなによりでした! (U.I)
2015-01-08 19:39:30
真弓さま、

大変な天候の中、ご無事でなによりでした。でも、素晴らしい年越しのご様子、楽しんで拝読しました。
今年も真弓さんのブログを楽しみにしています。

…私は体調を崩して、年末年始はダウンしておりました。本当に、無茶はいけませんね。健康と安全第一で、今年もよろしくお願い申し上げます。
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ありがとうございます (鈴木真弓)
2015-01-08 20:29:32
U.Iさま ありがとうございました。
今夜(8日)初詣の相棒と仕切りなおしの新年会をやりまして、本人は参拝したすべての社寺に感動したと満足しており、今月中に一人でもう一度(電車で)行ってくると熱くなっておりました。ホッとしております。インフルエンザが流行っておりますのでどうかご自愛くださいませ。
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