杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

地域が目指す世界レベルとは

2008-01-27 00:01:24 | NPO

 25日は静岡県総合情報誌『MYしずおか』次号(2008年春号)の知事対談で静岡空港について、26日は静岡県NPO推進室の情報誌『ぱれっとコミュニケーション』の取材で、東部地域NPO協働推進フォーラムに参加し、地球温暖化と環境問題について、どっぷり考えさせられました。同じ県が発行元になっている広報物なのに、180度違うことを書かねばならないハメになりそうだからです。

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  焼津の松風閣で行われた知事対談では、JNTO(独立行政法人国際観光振興機構)理事長の間宮忠敏さんと、空港が出来ることによって静岡とアジアがダイレクトにつながるメリットや、静岡に世界レベルの飛びぬけた文化や観光的な魅力をつくれば国内外から人を呼べるといった、威勢のよい話のオンパレード。「大交流」「大競争」「グローバル」等々のフレーズが飛び交います。開港時から国際線の定期就航が決まっている地方空港は例がないそうで、知事も鼻高々のようでした。

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 一方、NPO協働推進フォーラムの『千年の森がゴミになる日・地球温暖化とは』と題した講演で、未来バンク事業組合理事長の田中優さん(ミスチル櫻井和寿や坂本龍一のエコ・コンサートをサポートした活動家)が最後に放った一言が、とても印象的でした。

  「地域にないものを探そうとする人、外から持って来ようとする人は、その地域をダメにする。地域にあるものを活かす人が、その地域を真に豊かにする」。

  わかりやすい例が木材で、日本には森林がたくさんあるのに、単に安いからといって森林の少ない国からわざわざ輸入し、国内の森林は利用されずにどんどん荒れ果て、自然災害の温床になっています。

 北米あたりからエネルギーを使って木材を運ぶとき、木材1トンあたり290トンものCO2を吐き出すそうです。木材に限らず食糧もそうですね。最近、フードマイレージという言葉をよく耳にしますが、遠距離から運ばれるモノほど輸送時にCO2を出す。地産地消はその観点からも進展させなければなりません(静岡酒ファンの立場からすれば、静岡で売られる他県の酒や輸入ワインにもフードマイレージを明示させろと言いたい!)。

  

  環境問題とは離れますが、以前、県内のアマチュア劇団の公演情報を集めた『舞台芸術情報』という季刊誌の編集を担当し、同じ文化セクションでも、静岡県舞台芸術センターSPACにかけられる予算はケタ違いで、情報誌の制作費ひとつとっても雲泥の差があることに愕然とした経験があります。

 確かにSPACは一流の演出家が専用劇場で専属俳優を自在に使って、世界レベルの演劇文化を創り上げようとし、一定の評価を得ているようですが、客の6割以上は東京の人だそうです。一方で、私は県内アマチュア劇団のレベルの高さに驚き、取材後も、いくつかの劇団の公演に自費で通いました。地域ぐるみで支援したり、学校OBで力を入れる劇団もたくさんあり、これぞホンモノの地域文化だと思いましたが、アマ劇団に日の目があたるチャンスはなかなかありません。

 空港が出来て、知事の青写真のように、人・モノ・情報が活発に行き交い、静岡が世界に向けて存在感を示す地域になるとしても、地元の市民が観る機会の少ない高尚な舞台芸術やオペラが地域の顔になるんでしょうか。

  

  これだけ環境問題が叫ばれ、ダボス会議やサミットの議題になる時代です。「富士山」を空港名の冠にし、自然景観をウリにするなら、日本でもっとも森林資源や海洋資源を大切にする地域を目指してほしい。たとえば木造住宅建設率ナンバーワン、あるいは省エネ家電やハイブリッド車使用率ナンバーワン、風力発電力ナンバーワン等々、目指す“世界レベル”はたくさんあるような気がします。

 県の東西を貫く東海道だって、昔のように人が歩ける道に戻してほしいし、街道に芝居小屋や茶屋があって、庶民が気軽に大道芸や芝居を楽しみ、観終わった後は居酒屋で地酒を酌み交わす。それが、歩いて帰れる範囲内にいくつもある・・・東海道のお膝元には、そんな娯楽文化もあったはずです。

 いずれにしても、空港開港後、富士山を客寄せパンダにして終わりではなく、富士山のある静岡は、住民も、環境的にも文化的にも進んだ(=地域にあるものを大事にする)暮らしをしている、と思われる地域になってほしい…田中さんのお話をうかがいながら、そんなふうに思いました。

 これから執筆・編集にとりかかるこれらの原稿には、もちろん、そんな個人の余念は挟めませんが。


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