杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

元気印、伊豆を行く

2008-01-30 10:37:12 | NPO

 このブログを書き始めた昨年末から、年度末が近いせいか、行政関係の広報・資料・報告書づくりにどっぷり漬かっています。よく、ライターさんってあっちこっち取材に行けておいしいモノとか食べれていいわねぇ~と言われますけど、大半はパソコンの前で黙々とキーを打つ地味~な作業です。最近はメールでの業務連絡が多いので、家から一歩も出ない日は、丸一日、一言もしゃべらないってこともあります。だからこそ、たまに遠距離取材があると、溜まったものが一気にハジけたような開放感に包まれます。昨日はまさにそんな一日でした。

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  向かったのは、県NPO情報誌『ぱれっとコミュニケーション』で取材をお願いした賀茂郡河津町のNPO法人『伊豆の田舎暮らし夢支援センター。南伊豆1市5町(河津町・東伊豆町・下田市・南伊豆町・松崎町・西伊豆町)に移住を希望する都市生活者の暮らしをサポートしようという団体で、代表の井田一久さんご自身も神奈川からの移住者。伊豆でのんびり田舎暮らしを考えるのは裕福なシニアが多いのかと思っていたら、意外にも、希望者の中心は、20代シングルや30~40代の子育てファミリー世代で、気候温暖で自然豊かな環境で、アトピー治療やロハス的なライフスタイルを志向して、という人が多いそうです。

 

 一方で、高齢化が進み、農業や漁業の後継者がなく、“限界集落”と化した地区が点在する南伊豆一帯では、観光客は歓迎するが、移住者は“都会から、自分たちの先祖伝来の土地や財産を搾取しに来た”という目で見る人も少なくない、という実態があるそうです。海岸の美しさで知られるある集落では、漁業権を持つ戸数以上は世帯を絶対に増やさない、次男・三男も集落の外に出されるという封建的なしきたりが残っているとか。都会から若者が「海のきれいなところに住みたい」とやってきても、まるで相手にされないのです。

 そんな、都会と田舎のさまざまなギャップを埋めようという井田さん。3年前に移住されたばかりですが、地域の自主防災活動に積極的に参加し、持ち前の行動力とリーダーシップが住民の信頼を集め、下田で災害ボランティアコーディネートの会を作り、さらにその会で得た人脈をもとに、「“待ち”の姿勢の観光業では伊豆はもたない。人口を増やす努力が必要だ」との熱意で都会からの移住者の積極的な誘致活動を始めた、というわけです。「伊豆へは老後をのんびり暮らすために来たんじゃないの?」と奥様にツッコまれながらも、リタイアした建築設計士の仕事も再開。NPOを立ち上げて1年を経て、すでに移住を果たした人たちや、移住希望者のアンケート調査をきめ細かく行い、問題点を洗い出し、対策に取り組み、コーディネート実現世帯第1号を目指して奮闘中です。

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 井田さんのエネルギッシュで真摯な姿勢に「何とか手助けしてあげたい」と、その場で井田さんにアドバイスをしたり、あちこちに支援先に電話をかけたのが、共に取材にうかがったNPO法人活き生きネットワーク理事長の杉本彰子さんです。

 彰子さんのことはこのブログでも何度も紹介していますのでご存知かと思いますが、情報誌ぱれっとコミュニケーションの制作請負団体の責任者という立場で、どんな遠距離の取材でもきちんと同行し、取材先のNPO団体としっかり情報交換をし、場合によっては先方の相談にも応じたりします。あきらかに情報誌制作という下請作業の範疇を超えていますよね。静岡県のNPO団体の役に立つ情報提供を行い、NPO団体の運営者やこれからNPOを立ち上げようという人に、現状の問題点や解決の手段の一助とする、という、この情報誌の本来のミッションを、自ら実践されているのです。

 私は、彰子さんが取材に同行しNPO当事者ではなければ聞けない質問をぶつけ、先方の声に反応してくださることで、取材の姿勢の根っこの部分をがっちり教えられた思いがして、毎回、本当に充実した取材ができます。

 そのお礼といっては何ですが、せっかく河津まで一日おつきあいいただくのだから、と、私の知っているパン屋さんやお蕎麦屋さんや農産物直売所に寄り道し、お土産ショッピングを楽しんでいただきました。

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 沼津の富士家製パン所(沼津市本郷町9-1 TEL055-931-0339)は、県内最古のレンガ窯で天然酵母のパンを焼く店。コッペパン、ロールパン、イギリスパンなどシンプルで素朴な味が好きで、私はかれこれ20年以上通っています。昭和の駄菓子屋のような雰囲気をまったく変えない店の雰囲気も大好きです!

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 稲取の手打ちそば誇宇耶では、そば通の彰子さんが絶賛してくれました。サイドメニューで頼んだ風呂吹き大根や湯豆腐も、デザートにサービスしてくれたサツマイモ入りそば蒸しようかん&ゆずの甘露煮(写真)も、自家菜園で丁寧に育てた食材を使っているので、素朴でやさしい味わい。お土産用の乾麺や自家製つゆをたくさん買って帰りました。

 

 

 河津町には、彰子さんがいつも取り寄せているという手づくりマーマレードがあるそうで、「おいしいパンが手に入ったから、これもぜひ買って帰らなきゃ」と、ひめみや加工所(河津町笹原348-8 TEL 0558-32-1124)の飯田万津恵さんのいよかんジャムをゲット。

 その後、県賀茂郡健康福祉センター所長の萩原孝子さん(前・県NPO推進室長)を、下田総合庁舎に訪ね、3月で退職されるという萩原さんにご挨拶をしました。

 萩原さんは彰子さんのことを同志のように親身になってサポートされた、県の管理職の方の中でも人一倍心根の深い方。農業普及指導員をされていた頃、ひめみや加工所のマーマレードづくりを支援していたこともあり、彰子さんに飯田さんのマーマレードを紹介したのも萩原さんでした。「飯田さんは彰子さんに一度会いたい、ぜひ講演に来てもらいたいって言っていたの、コンタクトが取れてよかった」ととても喜んでくださいました。

 彰子さんは、田舎暮らし支援の井田さんのことを萩原さんに紹介し、何かあったら応援してあげて、と伝えました。NPOと行政の協働って、基本は、こういう人と人の結びつきや信頼なんだなあってつくづく実感しました。

 

 いい取材ができて、お土産もたくさんゲットして、実に充実した一日でした。が、一番、印象に残ったのは、帰路、真っ暗な亀石峠で、路肩に残った雪を見て、「孫のお土産にしたい」と買い物袋を何枚も重ねた中に、雪の塊を一生懸命詰める彰子さんの姿でした(お孫さんにとっては、他とは比べ物にならないお土産でしたね!)。静岡に着くまで車の中で溶けないかと心配し、少し暖房を弱め、その代わり、一時も休まずあれこれしゃべり続け、23時にやっと帰宅。

 運転の疲労より、ふだんの何十倍も人としゃべった疲れが来て、昨夜はぐっすり眠れました。


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